nabisonyoです。
当ブログにお越しいただきありがとうございます。
こちらは『麗~花萌ゆる8人の皇子たち~』の二次小説を書かせていただいています。ドラマのイメージを壊すとご不快の方はこちらでご遠慮ください。お許しいただける方は少しでも楽しんでいただけると嬉しいです。
今回から『高麗日記』4話の予定で新しいお話を書きます。
日本語読みですと「こうらいにっき」ですが、「こりょにっき」とお読みください<(_ _)>
少しお付き合いいただけますようお願い致します。
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あの日、デパートで思い出した記憶。
苦しくて、切なくて。でも、愛おしくて。
あなたのことを思い出しながら流す涙。涙は枯れることがあるのかというほど流れてくる。それでも毎日は過ぎ去るから、あなたを忘れることが怖くてパソコンを開いた。
黒い画面にぼんやりと映る自分の顔。電源ボタンを押すと、韓国でも高麗でもない、どこかの国の風景が画面に映し出された。そしてサイトを立ち上げ入力していく内容は、あなたに繋がるわたしの記憶。
わたしが千年前に行った日から始まる、夢のようで夢じゃなかった話。
ゆっくりとあなたを思い出しながら文字を入力する時間は、あなたとおしゃべりしているようで。あなたがいない日々を暮らしている中でとても幸せな時間になった。
もちろん、思い出して悲しくなることもあるし、あなたが何を思っていたか分からなくて苦しくなることもある。
でも、文字にすることであなたの愛をもう一度知ることができた。
仕事の合間に少しずつ書き、あなたが現代にいるわずかな奇跡を期待してブログという形で公開した。
『高麗日記』と名前をつけ、思い出せる限り一日を詳しく書き、不定期でアップしていくから、書けたのはまだわたしがあなたと出会った年の大晦日のところまで。
公開して半年ほど経ったある日、ブログにメッセージが届いた。内容を確認すると出版社だと名乗る人からで。
『高麗時代の日々についてよく調べ書かれている。当時の皇族、豪族、宮女たちの様子が良く分かる内容だ。恋愛小説ではあるようだが権力争いを織り交ぜ興味深い。文章は多少修正が必要だが世の中に出す気はないか』
そんな内容だった。
メールが届いた時には驚いたけれど、書かれていた出版社の名前は大手で。どう考えてもからかわれているのだろうと思いメールを無視した。けど、その後も同じアドレスから何回も連絡があり、毎回電話番号が記載されているので公衆電話からわざわざ硬貨を使って出版社に電話を掛けた。
『ソウル出版 文芸部です』
ハキハキとした女性の声が聞こえてきて、これは本当にからかわれたんだと思った。しつこいイタズラだと。だけど電話が繋がってしまったから、何も言わずに切るわけにもいかず。迷いながらも声を出した。
「……えっと、間違いだと思いますが。そちらから連絡をいただいた者で。……ヘ・スといいます」
『ヘ・スさん!上司から連絡があれば必ず通すようにと指示を受けています。ただ、本日は上司が出張のため不在にしておりまして、後日改めてご連絡させていただいても宜しいでしょうか?』
いたずらでは無かったという驚きに胸がドキドキし始める中、何とか声を出した。
「はい。かまいません。……あ、わたし。普段は仕事をしているので。まずはメールをいただけると助かりますと、伝えていただけますか?」
「はい。上司に伝えます。……あの、ヘ・スさんの小説。私も読みました。先を読みたくてワクワクしています。ぜひ、良いお返事をいただけると嬉しいです。お電話をいただきありがとうございました」
‟ワクワク”……か。
話の終わりを知っている身としては電話対応をしてくれた女性の気持ちを聞き複雑になる。
だって恋愛小説ではあるけれど、わたしたちの出来事だから。
ハッピーエンドで終わるわけじゃない。
受話器を公衆電話に掛けたままの姿勢から小さくため息を吐き、雑踏の中を歩き出した。
翌日、仕事から帰りもう寝るだけという時にパソコンを立ち上げると出版社からのメールを受信していることに気が付いた。編集長という肩書の人が会って話をしたいということだった。
いくつかの日時を打ち込み返信をし、結局その中の一番近い日で編集長に会うことになった。