nabisonyoです。
当ブログにお越しいただきありがとうございます。
こちらは『麗~花萌ゆる8人の皇子たち~』の二次小説を書かせていただいています。ドラマのイメージを壊すとご不快の方はこちらでご遠慮ください。お許しいただける方は少しでも楽しんでいただけると嬉しいです。
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2020年5月中旬
大学を出て街をブラブラして時間を潰し、マンションに戻って来た。だけどやっぱり玄関ドアの前で立ち止まり、ドアノブに手が伸びない。
冗談だと思ってた。お酒で酔ってたからって。
あれから一か月以上経つけど、気持ちの整理はつかなくて。毎日玄関ドアの前で動けなくて。すごく勇気を出してドアノブを掴むということを繰り返している。
夕方まで大学で勉強をして時間を潰し、家に帰っても自室に籠っていた。
何度もハジンお母さんとジフお父さんに『体調が悪いのか』『何かあったのか』と質問をされたけど、『何でもないです』とだけ返事をして逃げていた。
今日も何とか勢いをつけてドアを開けると家の中から美味しそうな香りがしてきた。ハジンお母さんが夕飯を作っているから。
この家に来てからいつも同じ。出かける前と同じような雰囲気。
お母さんも、お父さんもちゃんと帰って来て。私を抱きしめてくれる。
そんな家庭に本当は憧れていた。それが今は私の場所になっている。
ハジンお母さんもジフお父さんも、時代が違ったら私の本当の両親だった。
もし冗談だったとしても。そう思えるなら……。
それは、幸せなことじゃない?
「どうしたの?そんなところで立って。大丈夫?」
部屋の入口で立ち止まったままの私へ心配そうに聞くハジンお母さん。
「……私が、子供になって。本当に良かったですか?」
おかずを乗せたお皿をテーブルに並べていたハジンお母さんに聞いた。
前みたいに軽い口調ではなく低い声になってしまったせいなのか。もしかしたら声が震えていたかもしれない。真剣さが伝わったのか、ハジンお母さんは驚いた表情をして動きを止めた。そして手に持っていたトレーをテーブルに置くと、私に近づいて両腕を持ち、目を見て言った。
「血の繋がりは関係ないの。どれだけ愛しているかが重要なの。たとえあなたが嫌がっても、わたしたちはソルファを深く愛している。わたしたちにとって大事な子よ」
目が熱くなって、ハジンお母さんの顔を見ることができなくて俯いて返事をした。
「……うん。お母さん」
私より背の小さなお母さんが私を抱きしめてくれる。その腕が温かくて。心が温かくなって。お母さんの肩に顔を埋めた。
「お母さん」
お母さんに甘えたくて抱き返した。ずっと求めていた母からの愛情。
本当の親じゃないけど、本当の親だったはずのお母さん。
ピーッと玄関ドアが開錠される音と『帰ったぞ』と声がすると、お母さんは私の背中をポンポンと軽く叩き『ご飯にしようか』と笑顔で言った。
そのお母さんの目にも涙が浮かんでいた。
お母さんの言葉に頷いて、洗面所に行き手を洗っているお父さんに近づく。
「お父さん、お帰り」
「あぁ、帰……。おい、ソルファ」
「何?」
「……いや。お前もお帰り」
流しっぱなしになっていた水道の蛇口をひねり、そう言いながら手を拭き終わるとお父さんは私を抱きしめた。
心の中で返事をする。
千年振りに二人の元に帰れたね、と。