nabisonyoです。
当ブログにお越しいただきありがとうございます。
こちらは『麗~花萌ゆる8人の皇子たち~』の二次小説を書かせていただいています。ドラマのイメージを壊すとご不快の方はこちらでご遠慮ください。お許しいただける方は少しでも楽しんでいただけると嬉しいです。
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浜木綿 : どこか遠くへ
「おい、ハジン!今、母さんから聞いたがお前どこに行く気なんだ?また逃げるのか!?」
オ尚宮様の退院祝いパーティーの食事が終わりリビングでみんなが談笑している中、ダイニングでジョン皇子様と一緒にテーブルの後片付けをしていたわたしに、オ尚宮様から朝の話を聞いたのかジュヒョクが駆けてきて珍しく声を荒げて問いただした。
ジュヒョクの声でみんなから注目を集めたことに気が付き、気まずくてそちらを見ると、もちろんその視線の中には陛下のものもあった。今日も終始睨まれるようなキツイ視線を受けていて、自然と避けるようにダイニングテーブルへと視線が落ちていく。
「逃げるなんて、そんなこと……。今度は仕事でしばらく出かけるだけ。それにきっとその方がお互いのためにいいの」
「お、まえはっ!そんなんだから親友に男を取られて借金押し付けられるんだぞ!」
急に過去の失敗を掘り返されたことにカチンッと頭に来て思わずジュヒョクに言い返した。
「な!何よ!今ここで言うこと!?それならペガ様だってミョンオンニのことがず~っと!好きだったのにウジウジして何もできない意気地なしだったくせに!」
「な!何を言うんだ、そんな大昔のこと!それを言うならお前はウク兄上だってそうだろ?優しい人だったけど内面をもっと見ろ!」
「ちょっと!何でここでその名前出すのよ!そんなこと言ったらペガ様はウヒのこと忘れられなくてず~とっ!ず~とっ!今でも思ってるくせに」
「おい、待て!何度も言うがそれを言ったらお前だってソ兄上のことを!おぉ!?」
ジュヒョクと初めてした言い争いで陛下の名前が出てきた瞬間、わたしの涙腺が一気に壊れて涙が溢れ出してしまった。
「悪い!僕が悪かった!ハジン、泣くな」
「ゔ~、ジュヒョクのバカ!あの人はウヒとは違うのよ!ウヒはあなたを愛してた。だけどあの人は違う。違うのよ。わたしを捨てたんじゃないって、心だけでも来てくれたって思おうとした!あの時あの場所からどうしても動けなかっただけだって思おうとしたのに!忘れるって。ツラかった気持ちは全部忘れるって決めたのに。それなのにまた逢えたら嫌われてるなんて、苦しくてしょうがないじゃない!」
ジュヒョクの胸を泣きながら叩いて怒るわたしに焦って抱え込み背中をさするジュヒョク。皆の視線が刺さる中で『落ち着こう』と言われ、抱えられながらこの家のジュヒョクの部屋に入り、二人で詰めていた息を吐き出した。視線が合うとわたしを見るジュヒョクは遠慮がちに疑問を口にした。
「ヘ・ス。……さっきの、心だけでも来てくれたって、どういうことだ……?」
「……あの時。高麗での最後の時。ジョン皇子様がわたしを慰めるために楽団を呼んでくれた。それと一緒に、縁台と庭に牡丹をたくさん飾ってくれたの。わたしのそばで香りの薄い牡丹の花が香ったから……」
また、一粒。二粒と涙が出て来た。
「そういう、ことか。ジョンがお前を想って飾ったんだな。だから心だけでも来てくれたと……」
わたしは静かにジュヒョクへ訴えた。
「陛下は、わたしを捨てたの。今もわたしを憎んでいる。わたしを思い出さず、いつも怒っているのが証拠よ。またここでも辛い思いをしなくていいじゃない。逃げたって良いじゃない。お願い、ペガ様。わたしはそれを望んでいるの」
「……水とタオルを持ってくる」
そう言ってジュヒョクは部屋から出て行った。
間接照明だけを点けた部屋のベッドに腰掛けると、視線の先に使われていない勉強机があり家族写真が飾られていた。
みんな笑ってる。
陛下も笑ってる。
わたしがいたら、陛下は笑えない。
陛下と距離を取るべきだと改めて思った。