nabisonyoです。
当ブログにお越しいただきありがとうございます。
こちらは『麗~花萌ゆる8人の皇子たち~』の二次小説を書かせていただいています。ドラマのイメージを壊すとご不快の方はこちらでご遠慮ください。お許しいただける方は少しでも楽しんでいただけると嬉しいです。
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アングレカム : 祈り
オ尚宮様の手術当日。わたしはお休みをもらいジュヒョクにも内緒で病院に来ていた。手術室の前にはみんなが揃っていて心配そうにしていたけど、三十分ほどすると仕事の為か外に出て行く人たち。残ったのは陛下と、ジュヒョクとジョン皇子様。任務先から特別に休暇をもらって戻って来ていたジョン皇子様は手術室の前にずっと立っていたけど途中で背中を向けて外へ向かった。
その後ろ姿が気になり後を追うと、建物の影に隠れて肩を震わせている。本当は見なかったことにして通り過ぎた方がいいのだろうけど、大きな背中を小さく丸めている姿が切なくて、その背中にそっと手を当てた。
ビクリと跳ねて振り向いたジョン皇子様の目はやっぱり赤くなっていた。
「ジュヒョク兄さんの……」
「大丈夫ですか?ジスさん」
「……情けないです。男のくせに。母も頑張っているのに」
「そんなことないです。男も女も関係ないです。大事な人が大変な目にあっていたら誰でも苦しくなります。心配で泣きたくなります」
高麗ではユ皇后を看取れなかったジョン皇子様。権力欲が強く、子供を道具と思っていたユ皇后へさえも母として愛していたジョン皇子様は、自分でも気がつかないけど心の奥深くで同じことが起こることを恐れているのかもしれない。
小さくなった背中に手をあてポンポンとゆっくり叩きなぐさめた。五分ほどすると落ち着いたジョン皇子様は顔を上げた。
「……手術室に戻ります。母が気になるので」
眉毛を八の字にして言うからわたしも頷いた。
「ジスさん。お母様は絶対大丈夫です。すぐに元気になってくれます。わたしはそう信じています」
「そうですね!俺たちが信じないと!」
そう言って病院の建物に入って行く、さっきより大きくなったジョン皇子様の背中を見送っていると、一度立ち止まったジョン皇子様が振り返った。
「ヌナ!ありがとう!!」
その声にわたしも小さく手を上げて、建物に入って消えていくジョン皇子様をずっと見ていた。
手術が終わったその日の夜。
わたしはジュヒョクたちのお見舞いが引いた時間を見計らってオ尚宮様の病室を小さくノックして入った。
「まぁ、ハジンさん。来てくれたの?」
「申し訳ありません。こんな時間に来てしまって。でも、どうしてもジュヒョクのお母さんにお会いしたかったんです」
「ありがとう。ここに座って」
指さした丸椅子に座るとオ尚宮様が手を優しく握ってくれた。その手の温かさにわたしの涙腺が緩み、ポロポロと涙が落ちてくる。
「ジュヒョクのお母さん。良かった。ホントに良かった。ずっと。ずっと、ずっと元気でいてください」
涙で濡れるわたしの頬に手を当ててくれるオ尚宮様は優しく微笑んで小さく頷いた。
「‟ジュヒョクのお母さん”……じゃなくて。‟お母さん”って呼んでいいですか?」
「えぇ、もちろん。あなたはわたしの娘よ」
「お母さん……。良かった。手術が成功して、良かった」
オ尚宮様の手を握りベッドの端に顔を寄せて泣き始めたわたしの頭を、オ尚宮様は優しい手で撫でてくれた。その手は温かい手で。
オ尚宮様はあの時、わたしのせいで命を縮めた。すでに胃ガンだった。余命も少ないからと言われても納得できなかった。
不名誉な罪をきせられることも、もっと穏やかに太祖に看取られ、逝くこともできたかもしれない。
それなのにわたしがあの時、恋に目がくらみ忠告を聞かなかったせいで。大人しく話を聞き入れ、皇子様たちとの距離を置けばあんなことにはならなかったのに。
だから、現代では一分でも一秒でも長く生きて欲しかった。