nabisonyoです。

当ブログにお越しいただきありがとうございます。

こちらは『麗~花萌ゆる8人の皇子たち~』の二次小説を書かせていただいています。ドラマのイメージを壊すとご不快の方はこちらでご遠慮ください。お許しいただける方は少しでも楽しんでいただけると嬉しいです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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新学期が始まる3月。

新しい制服に身を包んだ高校生と思われる子や、スーツに着られた社会人になり立てと思われる人たちの横を車で通り過ぎていく。まだ寒い季節で厚手のセーターもコートも手放せないけど確実に春が近づいてきていた。

 

「そうそう。そういえばハジンを病院に連れて行った日、あいつのことを話そうと思ったんだよ」

 

ベクが運転をしながらバックミラー越しにわたしを見て声を発した。そして少しだけサイドガラスを下げ、外の空気を車内に入れる。冷たい風が流れてきたけど、暖房で温まった車内では気持ちよく感じるくらいだった。

 

「あいつ?」

 

「ほら、ハジンのお見合い相手」

 

今はソウル市内を東に向かって走り横には高麗大学校が見えたことで、ベクはわたしのお見合い相手だったワン・テさんのことを思い出したのかもしれない。ちょうどわたしも同じようにテさんのことを思い出していたから。

 

「お……見合い相手?」

 

急に左手に痛みが走る。

何も知らない陛下がベクの言葉を反復し、隣からスゴイ顔をしてわたしを睨んできて痛いくらいに繋いでいる手に力を入れたから。わたしが痛がって小さく声をあげるとすぐに力を緩めてくれたけど、怒りはまだ収まらないのか視線が痛くてしょうがない。

 

 

 

あの日……。

皆既月食の日に目を覚ました陛下はリハビリを終え、今日ようやく退院となった。わたしとベクは会社を休み、朝から一緒に陛下を迎えに行ってきた。今はベクが運転する車に三人で乗って、二人の家に向かっている最中。運転しているから陛下の鋭い睨みに全く気が付かないのか、気づいても面白がって無視しているのか、ベクが続けて言った。

 

「ほら、ジフ兄さんが高麗大学の物理学の講師だったからさ。兄さんの知り合いの大学教授にそいつのこと聞いてもらったんだ。だけど、非常勤講師も含めてそんなヤツ高麗大学にはいなかったってよ。やっぱりお化けだったんじゃないか?」

 

陛下が目覚めてからお互いの話を色々し、その中で今の陛下が高麗大学の物理学の講師をしていたと教えてもらった。専門は宇宙物理学で、わたしと話した星座の話を覚えていて勉強をし、留学後にアメリカで講師をしていたらしい。だけど、わたしのことがあり韓国に戻って来ていたところだった。

 

「え~?でも車も運転してたし。お化けぇ?……でもどこかで見たことがある気がするのよね。今思えば陛下にも、ヨ皇子様にも、ジョン皇子様にもどこか似ていたような。テさん……どこ行ったんだろう?」

 

睨んでくる陛下をよそに独り言でブツブツと疑問を口にしていたら、陛下が訝し気な顔でわたしに向かって言った。

 

「テ?」

 

「えぇ。ワン・テさん」

 

わたしの手を握りながら、考え込むように下を向いていた陛下がボソリと言った。

 

「……ヨ兄上の上に、第二皇子としてテ兄上がいた。俺が幼い頃に亡くなったが」

 

「……な、七人兄弟。男五人の女二人。若くして結婚した?」

 

上ずる声を抑えるように、少ないながらテさんについて陛下へ質問した。

 

「あ?あぁ、俺の母だった劉氏は七人産んだはずだ。それにテ兄上は亡くなった時にはすでに腹違いの妹。俺とは姉になる人と婚姻していたような。優しい兄で俺は懐いていて、亡くなった時に母と一緒にそばにいた。だから顔に傷ができたってことだが」

 

「えぇ!?まさか本当にワン・テさんって……お化け?」

 

「アハハッ!やっぱりハジンはやってくれるよ!お前、本当に面白過ぎ。いてっ!」

 

運転中なのに涙を浮かべながら笑うベクの座席を後ろから強く押してやった。それでもまだ笑い続けているベクに呆れてため息が出る。

窓の外を見ると街路樹に緑の芽が付いていて、やっぱり春がすぐ近くまで近づいてきていることを感じた。

 

 

 

 

 

ベクの運転で二人の家に着き、陛下の部屋に二人で入る。入院していた時の荷物を入れた鞄を床に置いた。

二年近く使っていなかったせいか生活感がなくてベッドと机があるくらいの部屋。皇宮とは違う一般的な家庭の家。机の上には物理学だと思われる難しそうな本と星の写真が表紙の本が何冊か重なり、棚には惑星儀や天球儀が並んでいた。それと一緒によく見える場所に写真立てがあった。

そっと写真立てを取ると、高校の制服を着ているベクと、軍服を着ている陛下。二人を挟むように立つご両親と思われる男女。仲良さそうな家族写真に陛下が愛されて育ったのだと嬉しくなった。

じっと写真を見ていると陛下がわたしを後ろから抱きしめてきて。あの頃と違い木蓮の香りはしないけど、あの頃と同じ彼の香りがした。

 

「愛されて育ったよ」

 

「はい……」

 

「だが、ハジン。お前はすぐに逃げようとする。俺以外の男とお見合いだなんて」

 

抱きしめる力を強めて拗ねたように言う陛下にクスッと笑いが起きた。

 

「テさん。……良い人だったけど、恋や愛ではなかった。あんまり覚えていないけど『あの子を思い切り愛してあげて欲しい』って言われた気がする。きっと、本当に陛下のお兄様だったのかも。それなら、陛下はあの頃からお兄様に愛されていたんです」

 

「もう、自由に生きろだとか、幸せになれだなんて言わないでください。一緒に生きて、二人で幸せになりましょう?」

 

 

向かい合って微笑み合い、陛下はわたしの腰を引き寄せ、頬に手を添える。

千年前から変わらないあなたの仕草。

目をゆっくり閉じると重なる唇。

 

 

「おーい!兄さん、ハジン!イチャつくのは夜にしてよー。腹減ったから飯食いに行こう!」

 

階下から聞こえてくるベクの声に、唇を離してクスリと笑いあった。

 

 

「愛してる」

「愛してます」

 

 

二人の言葉が同時に重なり、幸せが広がった。

 

 

 

 

 

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本編はここまで。来週はエピローグとなります~。

ここまで読んでいただきありがとうございました!

 

 

 

 

 

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