nabisonyoです。
当ブログにお越しいただきありがとうございます。
こちらは『麗~花萌ゆる8人の皇子たち~』の二次小説を書かせていただいています。ドラマのイメージを壊すとご不快の方はこちらでご遠慮ください。お許しいただける方は少しでも楽しんでいただけると嬉しいです。
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2月11日(土) 9:32
朝から雪が降り、遅番だったけど早めに出社しようと準備をした。傘を持ち家の外に出ると冷たい風と雪が顔にぶつかる。地下鉄に乗っていくつかの駅を過ぎドアが開いた時、ベクが乗車してきたことに気が付いた。
「ベク!おはよう。珍しいね、こんなところで会うの」
「お、ハジンじゃん。おはよ。これから出勤?」
ベクは端の席に座っていたわたしの横に立ち、ドアにもたれながら雑談を始めた。
「そう。遅番だけど雪が降ってたから早めに出たの」
「へぇ。真面目な社会人ぶっちゃって」
からかうベクに軽く文句を言いつつ、次はいつ飲みに行くかと話してわたしは先に地下鉄を降りた。地上からの冷気に体を縮めさせながら階段を昇り切り、外を歩こうとすれば空から降るものが雪から雨に変わっていた。『雨か』と独り言を言い、傘をさそうとすれば手元に傘が無いことに気が付いた。
「あ!電車に忘れてきた」
あぁ、気に入ってた傘だったのに。ついてない。
しょうがない。走ってお店に行こうかな。
空を見上げてため息をつく。幸いまだ小雨だったからそこまで濡れないだろうし、制服を着ている間に服を乾かせばいいと思い、駆け出そうとした時だった。
「ハジンさん」
名前を呼ばれて横を向くとクスクスと笑っているテさんがいた。黒いタートルネックセーター、その上から茶色の皮のロングコートを着ていて。いつもの爽やかな雰囲気とは違い、少しワイルドな感じ。その姿が一瞬苦手な誰かと重なった。
「……」
「おはよう。どうかした?」
「え?いえ、何でもないです。おはようございます。こんなところでどうしたんですか?大学はどうしたんですか?」
「うん。今日は午後からだから。雪も降っていたし嬉しくて朝の散歩をしていたんだ。傘、無いの?僕もないんだ。……そうだ!僕のコートに入っていきなよ。ほらっ」
「え?」
考える暇もなく腕を引っ張られて、テさんのコートを頭の上から掛けて中に入れられる。二人並んで小雨の中に出ることになり驚いた。
「ちょ、テさん!テさんが濡れちゃいます!」
「僕は一度家に帰って着替えてから出勤できるから気にしないでいいよ。それよりハジンさんが濡れて風邪を引いたらいけないだろ?」
信号で立ち止まりコートの中からテさんを見上げると、ニコッと笑った。強引なところに苦笑いをし、雨の中で反論することで余計に濡れさせるよりはと思って甘えることにした。テさんの足元を見ると黒いブーツが上の方まで濡れていて、どのくらいの時間歩いていたのだろうと思った。
店の裏側まで送ってもらい鍵を開けようとバッグから取り出したら、かじかんだ手から鍵が落ちてしまう。水と雪が混じる足元に慌ててしゃがみ、すぐに冷たくなった鍵を拾った。
「拾えた?」
「はい」
そう言ってテさんを見上げようと足元から視線を上げようとして目に入って来た。
黒いブーツ、黒いパンツ。そして……。
「茶色じゃ、ない……」
「え?」
「あ、ゴメンなさい!何でもないです。わざわざ雨の中を送っていただきありがとうございました。今度必ずお礼をしますね」
「いいんだ。大事な人のためだからね。じゃあ」
立ち上がって頭を下げてわたしがお礼を言うと、後ろを向いて離れて行くテさん。言葉だけ聞けば甘い言葉かもしれない。だけど、テさんの表情は恋愛感情を含んだ表情ではないように感じた。