nabisonyoです。

当ブログにお越しいただきありがとうございます。

こちらは『麗~花萌ゆる8人の皇子たち~』の二次小説を書かせていただいています。ドラマのイメージを壊すとご不快の方はこちらでご遠慮ください。お許しいただける方は少しでも楽しんでいただけると嬉しいです。

 

※こちらは『マイ・ディア・ミスター~私のおじさん~』も関係する二次小説になります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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2021年3月

 

日曜日の本屋。普段なら行くことのない歴史書のコーナー。

 

『高麗の第……。高麗の初代皇帝の二十五人もいた息子のどれかだ』

 

国史すらまともに勉強していない私には、高麗の初代皇帝に二十五人も皇子がいたことすら覚えていない。簡単そうな本を手に取りパラパラとめくるけど、もちろん二十五人全員について細かく書かれているわけじゃなくて。でもあれほど苦しむなら何か大きなことをした人だと思う。いくつか見比べて簡単だけど少し詳しそうな解説本を選んだ。初めて学校で勉強するような本を買って家に帰り、殺風景な自分の部屋でコーヒーを飲みながらまたパラパラと本をめくる。

 

一人目、皇太子。二代皇帝 恵宗。二人目は名前だけ。三人目、豪族に操られて遷都をしようとしていた人。三代皇帝 定宗。四人目、血の粛清をした人。四代皇帝 光宗。そこから名前しか出てこなくて次は、八人目。六代皇帝の父。九人目、光宗に反発して粛清された人。十人目、反乱を起こして処刑される。十一と十二人目も名前だけ。十三人目、八代皇帝の父。十四人目、五代皇帝の妻の父。そこからはもう名前だけ。

 

 

苦しんでいるユ・ジョンヒョン。

書かれていることを見るだけなら、光宗?

でも名君だったとも書かれている。

 

ホントかウソか分からないけど、きっとこの中の誰かだと思っている?そしてユ・ジョンヒョンの周りにいるという兄弟たちも二十五人の中のどれか。

いくら前世だからといってユ・ジョンヒョンは体が弱かったようには思えない。人に操られるタイプにも見えない。

だったら四人目か九人目か十人目の息子……?

 

 

窓を開けていると爽やかな5月の風が入ってくるけど、私の気持ちは晴れなかった。

 

 

 

 

 

翌日の月曜日、私は出社してすぐにベクさんを廊下で見つけて声をかけた。周囲に誰もいないことを確認して、でも小さな声で。

 

「土曜日はありがとうございます。緊急だったから助かりました。それで……。営業部長が変なことを言ってたんですけど……」

 

「何が聞きたい?答えられることは教えるよ」

 

言い淀んでいるとベクさんがいつもとは違う、真剣な目をして言った。その言葉にまさかと思いつつ聞いてみた。

 

「……ベクさんは、二十五人の中の何番目?」

 

バカげた質問だと思う。

でも……。ユ・ジョンヒョンと仲が良いベクさん。二人は普通なら合わないような性格の違いがある。だけど本当に前世というものがあって兄弟だとしたら、ベクさんも二十五人の中の誰かということになる。

 

「俺?俺は十番目」

 

あっさりと二十五人のうちの誰かを教えてくれたことに驚くと共に、十番目の息子だということに耳を疑った。

 

「ベクさんが……反乱を起こしたの?」

 

「さぁ?どうかな?俺はそんな覚えないけどね」

 

視線は足元に向けて小さく笑ったベクさん。

その答えは『覚えていない』なのか、高麗時代の記憶はあるけど反乱を『した覚えがない』なのか。

 

「じゃあ、ユ・ジョンヒョンは?……やっぱり、いい、です。仕事、します」

 

 

心臓がドキドキする。

前世なんてないと思っていたのに。思っているのに。

 

 

ベクさんから離れ、廊下の角を曲がる。壁に片手を添えて微かに震えている脚でゆっくりと進む。システム部までの短い距離がすごく遠く感じた。

足元を見ていた視線の先に綺麗な色のハイヒールがあり顔を上げると、無表情のその人は私に向かって言った。

 

「あなたは彼には似合わないわ。彼には明るい未来があるの。あなたみたいな人には似合わない。この会社にいられるだけでも有難いと思わないと。分かった?」

 

コツコツとハイヒールを鳴らし、自分の持ち場へと帰って行く人の背中を見つめた。

 

 

 

 

 

いつもと同じようにパソコンに囲まれて仕事をする。カタカタと鳴るキーボードの音。でも、周囲の会話が今日は余りない。というか、みんなが遠巻きに私を見ている気がする。特にそれを感じるのはシステム部を出た時。視線が刺さる気がする。視線だけを動かして周囲を見るけど、誰も直接は言ってこない。

今朝言われた女の人の言葉と、ベクさんと話したこと。さらにこの視線のせいで極力部屋から出ないようにはしていた。でも昼休憩くらいは視線を避けようと社外に行くためにシステム部から出たことがいけなかったかもしれない。

 

「おい、イ・ジアン」

 

私の前に土曜日の服装とは違う、いつも通りのピッタリとしたスーツを着たユ・ジョンヒョンに呼ばれた。

 

「……何ですか?」

 

さっきの女の人の言葉が気になって、上手く返事ができない気がした。そんなわたしを気にすることなくプライベートな用事をいいつけるユ・ジョンヒョンに苛立ちを覚えた。

お店に持って行けと左腕を取られはめられた時計。

その高級そうな時計が私との差を感じさせる。

 

「いい加減にしてくださいっ!私はあんたの秘書じゃない」

 

 

なんで私がこんなに悩まなきゃいけないの!

 

 

自分の感情がイッパイになり反発すると、ユ・ジョンヒョンはもう一度私の左腕を持ち上げて言った。

 

「ああ、秘書じゃない」

 

「だったら!」

 

「お前は、部下だ」

 

地団駄を踏みそうになるほど膨れ上がった思いで声を上げるけど、小さな声で私にだけ聞こえるようにそう言ったユ・ジョンヒョン。フッと笑ったその表情は蠱惑的で。掴まれた腕が熱く、はめられた腕時計がすごく重く感じる。

離れて行くユ・ジョンヒョンに私も背中を向け、急いで社外に出た。

 

 

 

 

 

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