nabisonyoです。
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こちらは『麗~花萌ゆる8人の皇子たち~』の二次小説を書かせていただいています。ドラマのイメージを壊すとご不快の方はこちらでご遠慮ください。お許しいただける方は少しでも楽しんでいただけると嬉しいです。
※こちらは『マイ・ディア・ミスター~私のおじさん~』も関係する二次小説になります。
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2021年5月
短い挨拶を終え、会長室を後にした。
時々廊下ですれ違う奴らが俺たちを振り返り小声で話しているが、会長と言葉を交わしたことで気持ちに余裕ができたのだろう。しっかりと顔を上げ、前を向いて歩くイ・ジアンに俺は満足していた。
結局、その後にした商談が終わり建物を出て腕時計を確認すると7時近くになっていた。
「おい。イ・ジアン。腹が減ったから飯食うぞ」
「は?」
「クッ。お前、本当に面白いな。思ってることすべて顔に出ているぞ」
「何言ってんの?そんなことありません」
クツクツと込み上げる笑いを押さえることもなく、不満そうな顔をしたイ・ジアンを無視して居酒屋に連れて行った。向かい合って席に座り、何を頼むか聞くが『いらない』と言うので適当に焼酎と食べ物を頼んだ。
「仕事は終わりだ」
そう言って乾杯もせずに俺が焼酎を煽ると、まだ飲むことも食べることもしていないイ・ジアンがポツリと呟いた。
「もっとオシャレなところに連れて行かれるかと思ってました」
「何だ。ここじゃ不満か?ここは酒も飯も美味いぞ。俺の一番気に入ってる店だ」
「……もっと鼻もちならない奴だと思ってました」
「ハハッ!本当に面白いな、お前。ほら食えよ。冷めるぞ。明日は休みだしお前だって少しくらい酒を飲んでも良いだろう?」
その言葉でようやく箸を取り、少しずつ口に持っていった。
焼酎を一本飲んだがいつも通りこれくらいで酔うこともない。だけど、何となく目の前に座るヤツに話してみたくなった。まだ警戒しているのか酒はほとんど飲まず、舐めるようにしているイ・ジアンに向かって聞いた。
「なぁ、お前。国史は得意だったか?」
「……やっぱりいけ好かないヤツ。社長と仲が良いんでしょ?私の事情を知ってるくせにどこに国史を勉強する暇があったと思うの?そんな暇があったら働いてた」
「そうか。……俺は国史が大嫌いだ。特に高麗初期がな。嘘ばっかりだ」
「あっそ」
不機嫌な顔を露わにしてキムチをつまみながら酔った人間の戯言だと思って聞いていないのだろう。その方が俺も良かったから気にせず話したいことだけを話し続けた。
「イ・ジアン。お前、前世ってあると思うか?」
「バカみたい。そんなの頭のイカレている人の話だ」
「ハハッ!そうだな!ホントにその通りだ。だが俺は前世の記憶を持っている。いや、‟俺たち兄弟は”が正しいな。頭がイカレた兄弟だ」
俺を冷めた目で見返すイ・ジアンに対し笑いながら酒を煽って、空になったショットグラスをいじりなが話を続けた。
「ソにはあぁ言ったが、本当は何年も前からすべてを思い出していた。毎年同じメッセージを出すアイツを最初は見ない振りしていた。だけど……」
何も言わず、冷めた目で俺を見るイ・ジアン。それが逆に心地良かった。あの時、ミョンが言った『一刀両断してくれそうだから言いやすい』という意味が今は分かる。
慰めるでもなく、憐れむでもなく、ただ聞いてもらうことで、自分で‟諦める”という道が切り開けそうな気がした。
「お前のその目、悪くないな……」
怪訝な顔をするイ・ジアンにまた小さな笑いを覚えた。