nabisonyoです。
当ブログへお越しいただきありがとうございます。
『麗~花萌ゆる8人の皇子たち~』の二次小説を書かせていただいています。
ドラマのイメージを壊すとご不快の方はこちらでご遠慮下さい。
お許しいただける方は少しでも楽しんでいただけると幸いです。
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7時
グズグズと考えていたら気が付くと定時から一時間も時間が過ぎていた。金曜日に声を掛けられないなんてことはハヌルが除隊してから初めてだった。仕事が忙しいのかもしれないと思うけど、この時期は会社全体が落ち着いているのを知っているし、ハヌルの行動について在籍部署の社員はみんな知っているので金曜日の就業終わり間近に声を掛けるような人は最近いなかったはず。
やっぱり……。
いつかこんな日が来ることは分かっていた。
ハヌルは出会った日から、毎日、毎週。私の元に来ていた。だけどいつか私から心が離れて行くのだとなぜか最初から思っていた。
それは余りにも過剰なアピールで向けられる好意を信じられなかったのか、彼が全てにおいて完璧なのでもっと他に素敵な人を見つけるだろうと思っていたからなのか。
どうしても何度「付き合おう」と言われても首を縦に振ることができなかった。
そしてとうとうこんな日が来た。
たかだか一回、来なかっただけだと言われたらそうかもしれない。社会人だし仕事かもしれない。だけどそう思えないほどハヌルが私の元へ来てくれるのを受け入れてて、自分でも知らないうちに彼を待っていたのだと今さら気づいた。
私が首を縦に振らなかったせいなのは分かっている。だけど誰か他の人へ心変わりされるのが怖くて、苦しくて。自分の気持ちに気が付かないように目を背けていた。
重い腰を持ち上げて会社の外へ出る。大通りを歩いてベンチを見つけ座り、バッグから携帯を取り出してヨナの名前を押した。短い呼び出し音の後にヨナの声が聞こえて少しだけホッとする。
『はーい。シウン?どうしたの。ハヌルは一緒じゃないの?』
「……ヨナ。私、とうとう愛想つかされたみたい」
声以外にも他の物が出てきそうで、空いている手で目を覆う。自分の言った言葉にも心が痛み、体を折り小さくなった。
『は?何言ってるの?』
「ハヌル、来なかった……」
「私が信じられなかったのがいけなかったのかな?さっさと受け入れるか、もっとハッキリと振っていたら何か違ったのかな?」
『そんなことないわよ!納得できないのに付き合っても上手くいくわけがないもの。信じさせられないハヌルがいけないのよ!だけど、自分の気持ちに気が付かない振りをしていたシウンもいけないのよ。幸せになるためには嘘も妥協もダメよ。それに行動もしないと。いつもハヌルは来てくれた。だから今度はシウンが行かないと、ね?』
「で、でも。もうハヌルは……」
『大丈夫だって!何か理由があるだけよ。何年シウンに付きまとってると思ってるの?すぐに来るわよ。ほら、考えてないで行動して。悪い癖よ。たまにはシウンから会いに行きなさい。ほら、ファイティン!』
ヨナが電話を切り、私は両膝の上に肘をつき両手で目を覆う。
私が行動する……?
ハヌルはまだ私を待ってくれている?本当に?
他に好きな人ができたんじゃないの?
“ハヌルに好きな人ができた”
そうだ……。
この報われない、誰か他の相手を思っている人に好意を寄せるような気持ち。自分が愛するほど愛されないという諦め。そんな気持ちが私の中になぜかずっとあったんだ。
だからハヌルを受け入れることができなかった。
でも、ハヌルが誰か好きな人ができたなら応援できる、よね?
今まで無理させていたから幸せになって欲しい、よね?
そこまで考えた時に私の名前を呼ぶ声が聞こえた。
「シウン!」