nabisonnyoです。
当ブログへお越しいただきありがとうございます。
『麗~花萌ゆる8人の皇子たち~』のその後の二次小説を書かせてもらっています。
ドラマのイメージを壊すとご不快に思われる方はこちらでご遠慮ください。
お許しいただける方は私の拙い文章ですがお楽しみいただけると幸いです。
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彼女の歌ですべてを思い出した……。
歌が終わった時自分のことで精一杯な俺は、はしゃぐソルファを無言で兄夫婦の家に入れた。そして兄が話しかけるのも聞かず、すぐに踵を返し玄関の扉を閉める。
玄関ポーチのほのかな明かりの中で壁に寄りかかり、激しく鼓動する自分の心臓を右手で押さえつけた。溢れ出た記憶に溺れないよう、一回、二回……とゆっくり深呼吸をしてから車へと向かった。
「もう少し、時間はいいか……?」
そう言ったのは俺なのか、俺じゃないのか。頭の中は混乱し始めていた。
『何かが起こるかもしれないと思って眺めていたの』
そう言って彼女が悲し気に見つめていたあの湖へ行かなければ、あそこで何があったのかを聞かなければいけないと激しく思った。
湖に着き二人向かい合うと、いつもと違う様子の俺に彼女は怯えていた。その顔はまるであの最後に会った時のような表情だった。その顔を何度繰り返し思い出してきたか。
目の前にいる彼女がヘ・スではないとしたら、またあの別れた時の暗闇に戻るのではないかと心が引き千切れそうになる。
いいや!彼女はヘ・スだ!!
あの時のように手を離してはいけない、絶対に!
掴んでいた彼女の腕を体が勝手に自分へ引き寄せる。
「なぜっ!」
頭の中はまだ混乱していて言葉が上手く続いてくれない。走馬灯のように何度も何度も過去の記憶が頭によぎる。その度に、より鮮明に記憶が蘇ってくる。
彼女との出会い、心を交わし、共に戦い、手離し、逝かせてしまったこと……。
握っていた彼女の左手首をチラッと見るが傷はない。今、目の前に生きているのは本当に彼女なのか、夢ではないのかと不安になる。それでも、夢だとしても彼女を逃したくはない。
私はもう片方の手を彼女の腰に回し抱き寄せた。
「スよ……」
私の囁きに彼女は目を見開きつぶやいた。
「なんで……その名前知って……?」
「やはり、間違いではないのだな」
「スよ……。お前を追いかけて来た。もう、永遠に私から離れることは許さない!」
「本当に……ソ、皇子……様?」
その問いかけには答えず、私はヘ・スを力の限り抱きしめた。
あぁ、本当に……。ヘ・スが生きている。
心の底から喜びを感じた。