メディアリテラシーの授業「モノレール延伸記事」を題材に
こんにちは、自律学習塾ルックアップ代表の渡辺です。
今日は摂津市民には身近なモノレールの延伸が、延期になった記事からメディアリテラシーの授業をしてみます。
いつもの倍以上の長さですが、ぜひ読んでみてください。
メディアリテラシーの授業「モノレール延伸記事」を題材に
メディアの特性
2024年4月23日にモノレールの延伸が延期される、という記事がありました。
大阪モノレールは2029年を目標に、現在の終点である門真市駅から新設される瓜生堂駅までを延伸することになっていましたが、それが4年ほど延期になり、さらに工事費が増額されるとの内容です。
まずは題材となる記事のリンクを貼っておきますので、内容を最後まで見てください。
さて、メディア報道では、作成者のフィルターを通して読者や視聴者のもとに届けられる、という特性があります。
したがって、
・作成者が意図的に報道しない内容がある可能性
・作成者が裏取りや取材をせずに書いた可能性
・事実の部分だけでなく、作成者の意見感想の部分がある可能性
を考慮しながら読む必要があります。
事実の確認1 費用の高騰
では、上記の記事のうち、費用の面から確認していきます。
工法の変更や物価高騰の影響で約650億円増え、1400億円あまりになる見通し
とあります。
ここで知って欲しいのは、「縦の比較と横の比較」という考え方です。
横の比較は、現在行われている他の鉄道の延伸工事でも物価高騰の影響を受けているのか、それとも大阪モノレール特有の問題なのか、比べてみる、という考え方です。
ここで北海道新幹線の札幌延伸、北陸新幹線の敦賀延伸の記事を確認します。
事業費が当初想定の4割増となる約2.3兆円に膨らむ試算を発表した。追加で約6450億円が必要になる。資材高騰に加え、一部工事の遅れなどが響く
1年半程度の工事の遅延と2880億円の工事費膨張の見通し
とあり、北海道新幹線、北陸新幹線でも同様に費用が上振れしたことが指摘されており、大阪モノレールに限った問題ではない、ということがわかります。
さらに、縦の比較をしてみます。
縦の比較とは、試算を発表した当時と比べて現在の物価がどう変化しているのか、過去と比べるという方法です。
では、大阪府が発表した資料を見てみましょう。
⼤阪モノレール延伸事業 事業費及び開業⽬標の⾒直しについて
http://www.pref.osaka.lg.jp/hodo/attach/hodo-51056_4.pdf
ここには、
H24年度単価で当初事業費を算定して以降、建設労務費・資材単価が上昇しており、事業費に ⼤きく影響している。
とあります。
H24年度は2024年現在で12年前の試算になりデフレの真っ只中、これでは費用が高騰しているのは当たり前だということがわかります。
上記資料には、コンクリートは1.62倍、鋼材は1.85倍になっていると記載されています。
このように、メディアは素人でも数分で調べられることを調べずに、または知っていてあえて書かずに、記事を作成することがあります。
これが上記に述べた「作成者が裏取りや取材をせずに書いた可能性」「作成者が意図的に報道しない内容がある可能性」の実例です。
事実の確認2 工期の遅れ
次に、工期の遅れを見てみます。
横の比較をしてみると、上記の記事にもあるように、北海道新幹線、北陸新幹線ともに、工期の遅れが見られます。
大阪府の資料では、
現地での詳細な⼟質調査の結果、地盤が想定より軟弱であることが判明し、駅舎の基礎 ⼯法の変更が必要となったことに伴う施⼯期間の⻑期化等のため
とあります。
これを見て「もっと前に調査をしてわからなかったのか」と疑問を抱く人もいるでしょう。
上記の大阪府の資料では、
R2年度 都市計画事業認可、軌道法⼯事施⾏認可 ⽤地交渉や詳細設計を開始
とあり、また、吉村大阪府知事は会見で
瓜生堂駅の地質調査を昨年行いまして、想定よりも地盤が軟弱だということで
と発言しています。
また、以下の記事から、瓜生堂駅の予定地は、今年の1〜3月の間に立退が全て終了し、更地になったことがわかります。
つまり、令和2年度に用地の買収交渉や土地の調査、延伸部分の設計を開始し、令和5年に詳細な地質調査をした結果、地盤が軟弱であることが判明したことがわかります。
これを阪急淡路駅の高架化の工事と比較してみます。
ただ肝心の用地取得が難航。15年度に8年、27年度に7年の遅れが生じた。今年春には、さらに4年の遅れが判明し、現時点では令和13年度の完成を予定している
立命館大総合科学技術研究機構の村橋正武上席研究員は見通しの甘さは否めないとしつつ「大がかりな事業ゆえに着工して初めて実態を把握するというケースが多い。計画時に想定できる工法で工事に臨むため費用や期間の変動はやむを得ない場合もある」と指摘する。
よって、「もっと前に調査をしてわからなかったのか」の疑問に対しては、不可能だった、というのが実際のところではないでしょうか。
記事の評価とメディアリテラシー
ここまで確認したところで、最初に引用した題材となる記事の最後の部分を見てみましょう。
大阪府は近く延伸の遅れや予算の増加の詳細について公表することにしていますが、関係者からは「こんなずさんな延伸工事はあり得ない。費用も当初の2倍近くになっている」などと厳しい声が上がっています。
これは上記に述べた「事実の部分だけでなく、作成者の意見感想の部分がある可能性」のある一文です。
まず「関係者」というのが、肩書きや実名はもちろん、一体なんの関係者なのかさえ書かれていないため、実在の人物の発言かどうかわかりません。
記事作成者が自分の意見を「関係者」に代弁させているだけと疑われても仕方のない表現です。
淡路駅高架化の記事にきちんと「立命館大総合科学技術研究機構の村橋正武上席研究員」と肩書や実名が書かれているのとは対照的です。
また、「費用も当初の2倍近くになっている」のは試算が12年前のデフレ期のものであること、北海道新幹線、北陸新幹線でも費用は増額されていることは上記で述べました。
さらに、「こんなずさんな延伸工事はあり得ない」に至っては、北海道新幹線も北陸新幹線も費用は増額されて工期は延びていますので、的外れな批判です。
このような事実の一部分を隠し、または調べもせず、作成者の意見感想を潜り込ませた「結論ありき、批判ありき」の記事は、他にも非常に多く見受けられます。
上記のように、記事に書かれていることが本当かどうか、批判が的を射ているのかどうか、自分でいちいち調べながら読むことは大変面倒ですが、これがメディアリテラシーであり、現代社会に求められている能力だと言えます。