私の今日からの仕事は、犯罪を犯して牢屋に入れられた罪人を、監視すること。

ただの罪人ではなく、監獄から何度か脱獄している人、あるいは、何度も問題を起こした人など、監獄の中でも危険人物と判断された人が来る特別塔での監視仕事だ。


そのため、罪人1人につき担当の監視が1人いる。


24時間住み込みで働く私達は、仕事の危険さや、精神面なども考えて、給料はものすごく高く、1人の監視を終えれば、一年の休暇が与えられる。

それほどきつい仕事。


ここの監獄は、警備も他の監獄と比べ物にならないほど厳重で、罪人同士で争い事がないよう、牢屋と牢屋の感覚も広く、壁も分厚い。


窓もなく、色もない。無機質で無駄に広い部屋で、罪人達は死ぬのを待つ。

私が担当するのは、女性の罪人だが、それでもやはり恐怖で足がうまく進まない。


「岡田さん」

名前を呼ばれ振り返ると、先輩である峯岸みなみが立っていた。

峰「今から対面?」

岡「はい、、、」

峰「大丈夫!女性の囚人で初日から暴れた人は見たことないから!シャキッとしなさい!」

岡「はい!すみません、ビビってちゃ駄目なのに、やっぱり怖くて、」

私が俯くと、峯岸さんが思いっきり背中を叩いた。

峰「真面目だなぁ。感心、感心。あんまりビビってんなら私の担当と変わろうか?」

峯岸さんが悪巧みをする子供のように笑った。

岡「それは絶対嫌です!」

峰「あはは!!なら行った行った!」

そう言って自分の机に戻っていった峯岸さん。ベテランである彼女が担当するのは、かなりの暴れん坊で、毎日どこかしらに歯形をつけられて帰ってくる峯岸さんを、研修期間にずっと見ていた。


自分の担当が殴りかかってきたらどうしよう、、、自分が殺されたらどうしよう、、、


そんな不安がよぎる。


でも行かなければならない。


重い足を動かしてようやく一つの部屋の前まで来た。



この扉の向こうには、殺人犯がいる。


ドアノブにかけた手が震える。


大丈夫。武器や、怪しい物は、事前の身辺調査でないことが確認されている。手も足も椅子に縛られているし、万が一のために手錠も、警棒もある。


落ち着け岡田奈々!






そうしてゆっくり扉を開けると、そこには天使のように愛らしい女性がいた。



目が合うと、にっこりと笑う彼女。ほっぺたに大きな笑窪ができる。


肌が白く、透き通るように綺麗で、きらきらとして純粋そうな瞳が、とても可愛かった。


華奢な身体を椅子に縛られ、可哀想だなと思ってしまう。


でも彼女は殺人犯なのだ。

彼女の服の胸元には『u-04』と書かれたプリントがされていた。

一歩近づきまずは縛られている足を解放させる。



彼女は、いい匂いがした。


なんの抵抗もなしに、ただ微笑む彼女の表情は、とても優しく、殺人犯には到底思えなかった。


岡「u-04」

彼女の番号を呼ぶ。

「なあに?」

そう応える彼女の声はとても心地よかった。


胸が、どんどん締め付けられる。身体中が熱かった。

岡「岡田奈々です。今日からよろしくお願いします。」


そう言って深く頭を下げた。


「ふっ、あっはははは」


彼女が楽しそうにふきだすので、不思議に思って顔を上げた。


「真面目だね。普通は自己紹介なんてしないし、頭なんて下げないのに」

そう言って笑う彼女の笑顔を見て、なんだかとても嬉しかった。


ずっと見ていたいと思った。


自然と私も笑顔になった。


手も椅子からほどき、動きが自由になると、首に手を当て左右に揺らし、ポキポキと音を鳴らす。肩を回し息苦しさから解放されたように深呼吸をする。

その一連の彼女の動きを、私はただ黙って見つめていた。



すると、視線に気づいた彼女が顔を赤くして照れるので、思わず頬に手を伸ばす。


途中で我に帰り、手持ち無沙汰になった手を不自然に自分の背中に隠し、彼女を牢屋に案内するために外に出た。



外には監視仕事の先輩がいた。


岡「峯岸さん!」

峯岸の後ろには、先輩の篠崎、岩立、自分と同期の向井地、茂木、込山、岡部がいた。


あまりに牢屋への到着が遅く、心配して見に来てくれたのだ。


囲まれるように立ち塞がれて、錯覚かもしれないが、u-04は怯えたように私の後ろに隠れたように感じた。


皆んなが興味深そうにu-04をじろじろと見る。

なんとなく、それが嫌で、隠すようにu-04の前に立った。


普通、他人が担当する罪人は、なかなか見る事ができない。


他の皆んなが何を言いたいのか、なんとなくわかる気がした。


岡「あ、案内します!」

峰「お、頼んだ。ほら皆んな、自分の仕事に戻りな!」


そう言われて解散する。

私達は足速に牢屋へ向かった。








真っ白い無機質な部屋は、彼女の儚さをより一層引き立てる。


今にも消えてしまいそうな雰囲気に、思わず目が離せなかった。


岡「何かあれば、すぐに呼んでください。」


コクンと小さく頷き、きょろきょろと部屋を見渡す彼女。


岡「u-04、では一旦、私は失礼します。」


そうは言ったがなかなか牢屋の外に出られないのは何故だろう。

そう思っていると、彼女と目が合った。


「u-04って呼ばれるの、嫌です」


胸が熱くなる。


岡「し、しかし、、、」


どうすればいいのか分からず彼女を見るが、まるで察しろと言わんばかりに何も言わない。


岡「u-04、、、u、、ユー、ユウ、、?」


独り言のようにボソボソと考えていると、彼女がパッと顔を上げた。


岡「ゆう?」


「はい」


そう言って小さく手を上げはにかむ彼女は、どうしようもないくらい愛おしかった。