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前回の後半…と言う事で、今回は数有る零戦の型の中で評価が最も高い…とされる

『零戦二二型』

について記して参りますm(_ _)m




▲バッサリと切り落とした三二型の翼端を二一と同様に改めた零戦二二型。画像の二二型の搭乗者は、日本海軍航空隊の至宝、撃墜王の西澤廣義氏。



さてさて…

◆二二型が、最良と評価される理由

その最もな理由は、零戦の真骨頂である旋回性能と長大な航続距離、そして、そこそこの速度性能等、全体的にバランスが取れていた…等であります。

で、最良ではないか!と色めき立つ訳ですが、その辺りは私も『そのとおり』だと思う訳です(^_^;)

武装も、まぁ副武装は相変わらず豆鉄砲の7.7㍉機銃ですが、主翼の20㍉機銃は二二甲型となって長銃身の二号銃となり携行弾数も増えていますので、空戦継続力を含む攻撃力も向上しています。

がしかし、問題となるのが、『二一型に回帰した』と言う所です。

念の為にご説明しますが、『二一型に回帰した』との意味は、『また二一型に戻した』とか『また二一型を復活させて造った』言う意味ではなく…

『二二型は、二一型のコンセプトを踏襲した』

…との意味です。

以前、行間を読めずに勝手に勘違いした方がいらっしゃったので、『念の為』として説明を付け加えさせて頂きました(^_^;)


…さて、『念の為(笑)』のとおりに二一型のコンセプトを踏襲した二二型は、翼長を二一型と同様の12mに戻し、翼端形状も半円形とし、燃料タンクも増設したので、旋回性能と航続距離が回復した…と解説されている事が多い訳ですね。

最高速度も、三二型の角張った翼端形状は空気抵抗や乱流を生み、思っていたより速度性能の向上には貢献しなかったとされており、翼長を二一型と同様に戻した二二型の速度低下は大騒ぎする程ではありませんでした。


◎三二型⇒544km/h

◎二二型⇒540km/h


で、やはり最良ではないかっ!!となりそうですが、良い事ばかりではありませんでした

( ー`дー´)キリッ

二一型と同様の翼長に戻した二二型は、当然の如く横転性能は機敏な三二型より悪化しました。

又、三二型では後の五二型と同等の急降下制限速度の667km/hとなっていましたが、二二型では二一型と同様の630km/hに低下し、やはり急降下時に速度が乗ると機首がグッと持ち上がって来る悪癖も復活してしまっていました。


そして、この二二型には、後の零戦の各型にも影響を及ぼす大きな欠点が生まれていたのです。



◆先生登場っ!◆

先生は、ポンコツだった二一型からようやく卒業(笑)出来て、二二型に搭乗する事になり、当初は喜んでいたと言いますヽ(=´▽`=)ノ

しかし、二二型の仕様や諸元を確認すると、途端に暗澹となりました。

それは何故かっ⁉…と申しますと、二二型は、発動機が三二型由来の栄二一型となっている事での燃費の関係で、主翼に燃料タンクが増設されていたからです。



▲零戦二二型以降の燃料タンクの配置。
①翼内燃料タンク220L
②外翼内燃料タンク45L
③胴体燃料タンク60L
※三二型の前期型は翼内燃料タンクが210Lでしたが、後期型では220Lへと増加されており、二二型はその仕様を受け継いでいます。


◆最も被弾しやすい部分は…◆
空戦に於いて、最も被弾しやすい部分は、当然広い面積を持つ主翼な訳です。
欧州機等は、それを見越して主翼に燃料タンクを持たない機体が多く、それ故に短い航続距離や滞空時間となっていますが、仮に主翼内に燃料タンクを設けていても、防弾(防漏)タンクとなっている事が常識です。
グラマンF6Fヘルキャットの場合は、主翼に6丁もの12.7㍉機銃を搭載し、艦上機故の複雑な主翼折り畳み機構も備えていますので、元々主翼内に充分な容量の燃料タンクを設ける事が期待出来ないので、胴体の下半分を燃料タンク化していたりします。 
それ等と比較して、零戦二二型はどうでしょう?
まるで『当ててくれやっ!』と言わんばかりの燃料タンク配置だと思いませんでしょうか?
特に外翼燃料タンクの位置など、最悪です。
零戦は(他の機種も同様ですが)、胴体下に落下式の増加燃料タンク(増槽)を装備して進出し、会敵時に増槽を切り離して身軽となって戦います。
当然、進出距離にも依りますが、まずは増槽の燃料から使って進出します。
つまり、空戦開始時には主翼内の燃料タンクは満タンな訳です。
その防弾(防漏)もされていない燃料タンク…特に被弾しやすい位置に有る外翼燃料タンクに被弾したなら、運が悪ければ瞬く間に火ダルマです。
で、『こんなの乗りたくねぇーよっ!!』と先生は暗澹となりつつ、脳裏に火ダルマになった自機のイメージが浮かび、震え上がったと言います。
この部分に関しては、防弾(防漏)されていないとは言え、外翼燃料タンクが無い二一型や三二型の方が、まだマシだったと言えるでしょう。
先生も、そう言っておりました。


◆飽く迄も飛行機としては…◆
冒頭にも記しましたが、二二型は、二一型と同様に、飛行機としては良い飛行機だったと言えるとは思います。
ですが、前回の二一型に対しての先生のコメントのとおりに、『戦闘機として』と考えると、果たしてどうでしょうか。

『バランスが云々…』とは、飽く迄も『飛行機としては』であり、『戦う飛行機』として考えると、果たして零戦二二型は『最良の零戦である』と言えるのでしょうか?

バランスが良くても、敵機に対抗出来なければ、敵機に急降下で簡単に逃げられてしまう様では、そして一撃で墜とされる様では、戦闘機として意味は無いんですね。

私的には、先生と同様に『こんなのに乗って戦いたくはない』と言うのが、正直な気持ちではあります。

とは言え、戦争ともなれば、そんな事は言っていられないのは当然で、『有る物』や『与えられた物』を駆使して最善を尽くすしか無い訳ですね。

厳しい現実であります(´;ω;`)


そしてそして…二二型が『最良の零戦』ならば、その二二型を…つまり二一型のコンセプトの延長線上に有る新型の零戦が、後に全く生み出されなかったのは何故か…?

後の零戦は、それ迄の二一型由来のコンセプトを捨て、三二型の進化系と言える五二型系へと変遷して行ったのは何故かっ⁉

つまり最良ではなかったんじゃねぇのぉ〜…と呻きたくなるのです。

二二型を『最良の零戦』として謎の評価する向きには、甚だ疑問であります( ー`дー´)キリッ




◆グラマンF6Fとの対戦◆

極論を言えば、二二型が最良の零戦ならば、後の五二型系統は不要だった筈です。

結局、『最良の零戦』と評価されている二二型では、連合国軍機に対抗出来なくなったからこそ、五二型系統が生み出された事を鑑みれば、『二二型が最良』との事には疑問符しか無い訳です。

そして、現実にグラマンF6Fヘルキャットが、二二型に対して猛威を奮います。

F6Fは、1943年の9月19日のギルバート諸島攻撃が初陣となっており、零戦五二型は同年の8月に初飛行し、実戦配備が始まったのは秋以降ですから、新型零戦の五二型が最前線に行き渡るには時間が掛かりました。

その間は、最前線部隊は既存の零戦である二二型や二一型で戦っていた訳ですが、当然、空戦では損失が生じます。

何処かの部隊に余剰機が有れば、それを回してもらって一時的な補充は可能ですが、部隊が大きな損失を被った場合は、そうは行きません。

そうなると、他部隊に増援を要請するか、新造機を大量に送ってもらう必要が生じます。

しかし、他の部隊は自分等の事で手一杯であって増援どころではなかったり、新造機の補充を期待しても、二二型の生産ラインは五二型に切り替わって生産の立ち上がり状態なので、新造機の確保は容易には叶いません。

そんな時に前線へ送られて来るのが、昭和十九年の春頃まで生産が続けられていた『零戦二一型』であり、現地の搭乗員を驚かせたと言います。

『補充機は、今更ながら二一型じゃねぇかっ!!ヽ(`Д´)ノプンプン』

で、彼等は口々に言うのです。

『のろまな二一型は要らない。早く新型をよこせっ!!(# ゚Д゚)』

…あれ…? 二一型は最強の零戦なのだから、皆んななんで喜ばないのでしょうかね…?(白目)


結局、二一型も二二型も、現場では要望なんかされてなかったのです。

例え補充の新造機が二二型であったとしても…

『早く新型をよこせっ!! もう二二型では、どうにもならんっ!!』

…だったそうです。

最前線で要望されていたのは、新型零戦の五二型であり、それだけ期待が大きかったのです。

それは、最良とか謎の評価をされている二二型が、F6F相手に如何に苦戦しているのかを物語るものであります。

事実、前線の搭乗員の二二型に対する評価は決して高くなく、それは『性能的に、二一型と大して代わり映えしない』との印象だったのです。

『最良』などとの謎の評価の実態は、そんなもんです。

先生は……

『補充を待ち焦がれて、やって来たのが二一型だったら、その落胆は計り知れないだろうな…(遠い目)』


▲2017年6月3〜4日に、千葉県の美浜地区で行われたレッドブル・エアレースにて、日本人パイロットに依って里帰りのデモフライトを行った零戦二二型の復元機。復元機だけに機動制限が有り、派手な飛行は見られませんでしたが、生まれ故郷である日本の空を飛んだ零戦の魂は、どんな想いだったのでしょうか…


◆五二型でも、被弾には脆弱◆
二二型は、二一型と同様に『無防弾』でしたが、それは五二型も同様でした。
もはや、激化の一途を辿る各戦域の空戦では、『無防弾』では損害が増えるばかりであり、看過出来ない状況でした。
さすがに歯止めを掛ける必要が有り、五二甲型より、燃料タンクにゼーベック効果を利用した自動消火装置が装備されるに至りました。
しかし、それでも不十分と、零戦のサバイバリティの低さの対策が進んで行く事になるのですが、それは、被弾に依る損失が以前よりも目に見えて増えていたからでした。
以前は、『燃料タンクを撃ち抜かれたが、燃料が漏れるだけで運良く火災は発生しなかった』…等の事例も多かったのですが、戦争が進むに連れ、一撃で火ダルマになる事が増える一方となったのです。
それは…鹵獲した零戦、通称『アクタン・ゼロ』から『無防弾』である事を米軍が掴み、その弱点を検証し、戦闘機が搭載する機銃弾の曳光弾を兼ねる焼夷弾を装填する割合を増やしたからでした。
極端にざっくり言えば、防弾装備の無い脆弱な零戦には徹甲弾など不要で、通常弾と曳光弾(焼夷弾)で充分とした訳です。
つまり、無防弾の燃料タンクを通常弾で貫き、漏れた燃料に曳光弾(焼夷弾)で火を点けてしまえば、零戦は瞬く間に火ダルマになって墜ちる…と言う訳です。
これは、主翼に無防弾の燃料タンクを増設された二二型には効果覿面となり、正に『一撃で墜ちる』と米軍パイロットに言わしめる結果となりました。
これは、被弾対策を何も施されていない五二型でも同様の事でした。
結果、五二甲型より、被弾対策が施される事になって行く訳です。


▲角張った翼端形状の三二型。外翼燃料タンクを備えないので、主翼の真ん中程に被弾しても火ダルマになる事は有りませんでした。又、横転性能が良いので、素早く急旋回に移行して敵機の射弾を回避しやすかったとも言います。『悪い』と言われていた旋回性能に関しても、同時期の対抗機よりも優れていました。搭乗員に依っては、『三二型は突っ込み(急降下)は良いし、機敏に動く。良い飛行機だ』と高評価しています。


◆結局、最良とは…?◆
思うに、『二二型は、全体のバランスが最も取れていた最良の零戦』との謎の評価の内容は、冒頭のとおりに…

①そこそこ速度も出る。
②主翼長を12mに戻した事で、旋回性能が二一型と同等に回復した。
③航続距離も、二一型と同等とは行かない迄も回復した。
④武装も、後に強化された。

…等をトータルしての判断だと考えます。
で、その逆を考えてみましょう。

①速度性能で、対抗機に対して優位に立っていない。
②横転性能が二一型と同様に緩慢となり、三二型より悪化した。又、急降下性能も特性も、三二型よりも悪化した。
③航続距離を延伸する為に、主翼外側に被弾対策を全く施されていない燃料タンクを増設した事に依って、容易く被弾炎上してしまう様になってしまった。
④武装強化型の二二甲型は、充分に行き渡らなかった。

…となる訳で、戦闘機と考えると、最良などとは決して言えないと思うのです。

そもそも二二型は、ソロモン航空戦の序盤となるガダルカナル島上空への進出に際して、三二型では航続距離が不足しているとの問題を解決する為に生み出された型と言えるのですが、後にブーゲンビル島のブインに前進基地が設けられ、ブインからならば三二型でもガダルカナル島の上空で1時間の空戦を行っても帰って来られる結果となりました。
三二型の燃料の容量を増やした後期型ならば、更に余裕だったのです。



なら…ホントは二二型なんて、被弾にも弱いし必要無かったんじゃないですかぁ?…と、心の中で呟いておく事と致しましょう。


…今回は、前回の二一型より続く後半部として、零戦二二型に関して記してみました。
如何でしたでしょうか。
最後迄お付き合い、ありがとうございました。
また次の記事でお会い致しましょうm(_ _)m