読書会の課題本
私が参加している読書会はゆるゆるなので
未読でも大丈夫なのですが、
年末に読んだ鴻巣友季子『文学は予言する』
(新潮選書)の中で紹介されていて
興味を惹かれたので読んでみました。
ちなみに『文学は予言する』も
面白かったので興味のある方は是非。
『献灯使』
多和田葉子
講談社文庫
死ねない体を持つ善郎はすでに100歳を
過ぎてなお、ジョギングするほど元気だ。
仮設住宅で曾孫の無名と暮らしている。
体力もなく、体も弱い無名は善郎に
世話をしてもらいながら生きていて
柔らかい感性と優しい心を持った子だ。
どれだけ体力がないかといえば、
朝の着替えが大変
ここで体力を使ってしまえば
学校まで歩いて行くことさえできない。
でも子供たちはみんなそうなのだ。
無名の発する言葉が善郎を涙ぐませ
なぐさめもし、はっとさせる。
そんな無名が「献灯使」として
選ばれ海外に行くことになる。
2人の住んでいる世界が
どういうものなのか曖昧だ。
なぜか日本は鎖国をしていて
外国語は禁止されている。
一見なんの問題もなさそうなのに
東京23区は危険な地域として
人は住んでいない。
政府は民営化され、議員たちは
人々に目的を知らせることなく
絶えず法律をいじるので
人々は自己規制しながら生きている。
まるでコロナのときのように。
オレンジ1個が1万円もする世界。
善郎と無名が暮らしている
空間と時間だけが
私をほっとさせる。
2人が生きる日本に住みたいと思う人は
いないだろう。
日本に限らず、世界の未来は
今を生きる私たちにかかっているのだと
言われているような気がした。
「野原でピクニックしたいって、曾孫はいつも
言っていたんだよ。そんなささやかな夢さえ
叶えてやれないのは、誰のせいだ、何のせいだ、汚染されているんだよ、野の草は。どうするつもりなんだ。財産地位には、雑草一本分の価値もない。聞け、聞け、聞け、耳かきで、耳糞みたいな言い訳を掘り出して、耳すませて、よく聞けよ」