前回の『ストーナー』が良かったので

今度はこちらを。


『ブッチャーズ・クロッシング』

ジョン・ウィリアムズ

布施由紀子 訳

作品社



「傷ついた心には、傷ついた肺と同様、

自然が何よりの薬だなどとほざきやがる。

だが平原でおれの連畜御者が凍死したのは

誰のせいだ?」

ハーマン・メルヴィル『詐欺師』


冒頭に引用されていた言葉


ブッチャーズ・クロッシングに

ひとりの若者がたどり着く。

粗末な木造の建物が

6軒あるだけの土埃の舞う町だ。


若者の名はウィリアム・アンドリューズ

東部の裕福な家に生まれたアンドリューズは

ハーバード大学を中退して

この町に来たのだ。


自然を知るために。


1800年代半ばのアメリカ西部には

数千の群れのバッファローがいたらしい。

そしてアンドリューズは

猟師のミラーたちと共に

バッファロー狩りへと旅立つこととなる。


ミラーだけが知る狩猟場へ向かうまで

飲み水が足りなくなったり

道を見失ったりと前途多難を思わせる。

でもそんなことは序の口で…


何かに取り憑かれたように群れに向かって

ライフルを撃つミラー

次々とバッファローの皮を剥いでいく

アンドリューズたち


壮大な自然の中

人の欲、見栄、夢の先にあったものは。


まさかこんな展開になるなんて

思いもしなかった。


心を包み込み、人に寄り添い

自己を解放してくれる自然を求めて

ブッチャーズ・クロッシングに来た

アンドリューズの経験した自然は

死と隣り合わせの過酷なものだった。


それでもその経験はアンドリューズを

変えたし、彼も元に戻ろうとはしなかった。



息もつかせぬ面白さで、ページを捲る手が

止まらなかったけれど

人の心の深い洞察、繊細な自然の描写は

『ストーナー』のときと同じでした。


ジョン・ウィリアムズの著作は3冊のみ

次は残りの1冊を。