新しい自我

「ふつう」を見いだす闘い

対談と随想

堀江敏幸+大竹昭子


わずか80ページという薄い本でありながら

読み応えがあり、何度も読み返しました。


堀江敏幸さんと大竹昭子さんという

2人の作家の対談をまとめたもので

堀江さんの3編の詩と随想も

収められています。


堀江さんが故郷や子どもの頃の話

言葉や生きる姿勢などについて語って

いるのですが、それらをその場限りに

するのはもったいないということで

本にしたのだとか。


周囲とのずれが生じようとも

自分にとっての「ふつう」であろうと

する。それはエネルギーも勇気も

必要だけど、堀江さんにとっては

譲ることのできない『軸』

世間の評価によって得られる充足感とは

少し離れたところで、優越感や劣等感とは

違う「違和感」を前向きに捉えつつ

頑なになることもなく、静かに戦う。

それを堀江さんは「ふつう」を見いだす

闘いだと言っています。


また堀江さんにとって、表現するというのは

ゴミを拾うことと同じ。

「先にいただれかが落としていったものを

拾って、吟味して、ほかのところに

移す」だけのこと。

最初から自分だけで作り上げたものなんて

ひとつもないと。


芥川賞作家なのに、とても謙虚な言葉にっこり

でもその姿勢こそが、堀江さんがいう

「ふつう」


対談という形が、より一層堀江敏幸という

人物が浮かび上がらせているように

感じます。


こうして文章を書いていて、全然言葉が

見つからないと思っていましたが

そもそも私はゴミ拾いが足りない。

薄々、気づいてはいましたが

改めて思い知らされました爆笑

「自分の言葉」なんていう言い方は

ただの傲慢…


収められた3編の詩は、それぞれ別の

場所で発表されたものですが、

もともとは続いている詩。

空から地上に降りてきた象が主人公です。

不思議な世界ですが、妻と子を守るために

宇宙を飛ぶ象の必死な想いは切ない。

心の中に星が瞬く宇宙が広がります。


これは原発事故の後に作られた詩。

どんな想いで作られたのか、その

経緯も本の中に書かれています。


これだけのことが書かれていて

(随想は都会に建つビルについて)

80ページニコニコ

薄いけど、重みのある一冊です。