鮮やかに




戦地の図書館

モリー・グプティル・マニング

松尾恭子訳

東京創元社

2016年7月29日発行



表紙は蛸壺壕で本を読む兵士です。


1933年5月10日ベルリンの街の

主要な広場で執り行われた焚書の場面から

この本は始まります。


『ドイツの価値を貶める有害な書籍を

抹殺しなければならない』という

ナチスの主張のもと、ドイツ全土で焚書が

行われました。それは個人も例外ではなく

ヨーロッパでは1億冊の本を失ったと

言われています。焼かれた図書館は

975。

本を焼く場面は、胸が締め付けられます。


ドイツはアメリカとの戦争に向けて

プロパガンダ作戦を,仕掛けますが

それに立ち向かおうといくつかの

組織が立ち上がりました。

そのひとつが『アメリカ図書館協会』です。


『彼らは、図書館の書架から書籍を

取り除きたくはなかった。書籍が

燃やされる光景を見たくもなかった。

アメリカが参戦していないからといって、

行動を起こさず、ただ手をこまねいて

いるつもりもなかった』

『思想戦における最強の武器と防具は

本である』


アメリカが参戦すると、アメリカ図書館

協会は正式に図書運動を開始し、

国民から本の寄付を集め兵士たちに

届けました。


目標は一千万冊。


戦争図書運動員は奮闘しますが

寄付される本にも限りがあり

兵士たちにふさわしくない本も多かった

ことから、出版社を中心とした

戦時図書審議会によるペーパーブックに

変わりました。


軍服の胸又はズボンのポケットに

合わせた2種類の大きさ。

紙の質、印刷方法から選書まで

限られた予算と物資の中で考え直し

本を作り戦地にいる兵士に送りました。


そして定期的に選書を行ない、

兵士が飽きることがないよう新しい本を

届けています。


本の内容も小説、古典から実用書まで

多岐に渡り、実用書は復員してからの

ことを考えてのことでした。


作家のもとには、兵士たちから

多くの手紙が届けられたのだそう。


そして復員兵は無償で大学に通うことが

できたため、兵隊文庫で読書の楽しみを

知った多くの人々が大学に進み

熱心に学び、アメリカの発展に

貢献したのです。


『ページの隅が折ってある、かび臭くて

湿気でぐにゃぐにゃになった本を持って、

兵士は前線に向かう。この南西太平洋の

戦場の思いもよらない場所で、兵士は

本を読んでいる。なぜなら、それが

兵隊文庫だからだ。なぜなら、尻ポケット

にも肩掛け袋にも忍ばせておけるからだ。

兵士はいつも兵隊文庫を持っている。

恐ろしく暗鬱なホーランディアの沼地は

泥深く、兵士は尻まで埋まった。でも

彼らには兵隊文庫があった。鹵獲した

日本軍機を略奪されないように

見張りながら、あるいは浜辺の基地の

ベッドの上で、あるいは食事の後で

ぶらぶら歩きながら、兵士は本を

読んでいる』


読書家であったヒトラーは本を燃やし

アメリカの図書館員や戦時図書審議会は

本を送った。どちらも本の力を

知っていたから。


私にとっても本はなくてはならないもの。


重みのある、そして本当に読んで

良かったと思える一冊でした。