春はすぐそこに…



350ページもあるのに、書かれているのは

わずか3日。



物語の舞台は、1918年スペイン風邪が

大流行するアイルランドのダブリンにある

病院。その2階にある小さな〈産科/発熱〉

病室で主人公の助産看護師ジュリア・パワー

は働いています。


この病室に次々と運び込まれるのは、

スペイン風邪に罹った出産間近の

妊婦たち。

彼女たちの多くは貧しく、夫や子どもたちの

ために働き、食べ残りと薄い紅茶だけの

食事という生活を送っていました。


第一次世界大戦とスペイン風邪の影響で

人も薬も備品も不足する中、ジュリアは

経験と機転と本(!)を頼りに

命を救うために奮闘します。


そこへ修道院からボランティアとして

派遣されたブライディ・スウィーニー。

孤児である彼女はあろうことか修道院の

寄宿施設にて、あらゆる虐待を受けて

いました。


この本は2人が過ごした3日間が

書かれています。


パラパラめくったとき、あまりにも

生々しいシーンが多くて読むのを

やめようと思いました。


でも最初のページから読んでみたら、

女性が命を産むそのシーンの力強いこと!


めまぐるしく生と死が訪れるこの場所を

ジュリアは、女性たちの戦場だと言います。

そして、母からの形見である銀時計に

カルテを掛けてあった釘で印を付ける

ジュリア。それは亡くなった母親や胎児が

生きた証。


フィクションでありながらブライディ・

スウィーニーの人生についての細かい

設定は報告書を基にしています。

彼女の人生はあまりにも切ない。

それだけにジュリアと過ごした3日間が

輝いてます。


そして思いも寄らない結末と

小さな希望。


時間を忘れるほど引き込まれた一冊でした。