まだまだ綺麗
 絶妙な緑と赤のコントラスト

 


 著者の坂口恭平さんは熊本県生まれ。
 作家、建築家、絵描き、音楽家。
 また躁鬱病であり、自身苦しい思いを
 したことから「いのっちの電話」を
 開設。坂口さんの電話番号を公表し、
 死にたいと考える人たちの相談を受けて
 います。

 プランターで野菜を育てても、いつも
 枯らしてしまっていた坂口さん。誤って
 リスを死なせてしまってからは、動物を
 飼うどころか触ることもなかったそうで
 す。

 そんな坂口さんが畑で野菜を作り始めます
 畑の近くの空き家に住む猫、
 ノラジョーンズとも仲良しに。

 そして朝原稿を書き、アトリエでパステル
 画を描いて、夕方には畑に行く生活を毎日
 続けることによって坂口さんの心と身体、
 絵や文章が大きく変わっていきます。

 「僕が土になる過程は、それこそ「人間に
 とって最重要なことが『作る』ことである
 という僕の考え方と重なってくるはずだ。
 土に向かうことで哲学も開かれていく。
 そんな実感がある」

 「土はいつも僕に新鮮なイメージを与えて
 くれる。イメージの源泉である」

 本の中では坂口さんのパステル画が
 どんどん進化していく様子も書かれて
 います。

 全然、坂口さんのことを知らずに手に
 とった画集。





 今描かれている絵は、さらにすごい。


 写真のように緻密でありながら
 光やそこに漂う空気まで感じられます。

 坂口さんは『苦海浄土』を書かれた
 作家石牟礼道子と交友がありました。

 「同じような書き方をしている人と
 出会えた」と本人が言っているように
 坂口さんの自然の描写や表現は、
 繊細で独特です。

 目の前に光景が現れるというよりは
 頭の中で力強くイメージする感じ。

 「時間が止まっている。流れている。
 思い出している。新しく生まれている。
 そして死んでいる。同時にいくつもの
 ことが起きている。それこそが時間で
 あり、場所であり、人間であり、土で
 あり、言葉だと思う。それらが起きて
 いる場所と時間全てが生命なのでは
 ないか」
 
 坂口さんの中を流れる時間の豊かさに
 胸が熱くなります。
 
 読み終えたとき、目に入ったいつもの
 何気ない窓の外の風景が、とても愛お
 しく思えました。