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潤くんのママから母ちゃんが聞いた話によると、潤くんは県外の陸上の強豪校からスポーツ特待生の誘いを受けたって事だった。
6月にあった中学最後の大会で、潤くんはすごい成績を残した。
今でもハッキリとあの時の潤くんを思い出せるくらい、すごかった。
ゴールした瞬間に潤くんはキラキラ光って見えたんだ。
その姿は、まるで神様に愛されてるみたいに見えた。
自分の力を100%出し切ったのが伝わったし、その結果としてタイムも自己ベストを更新していた。
そんな潤くんの姿に、オレまで嬉しくなった。
その大会の成績で、スカウトされているらしい。
やっぱりか。
それが最初の感想。
だって、あんなにすごいタイムを叩き出して、尚且つあんなに人を惹きつける潤くんだから。
見出されて当たり前なんだ。
「そっか……。潤くんはもう進路確定したんだ。」
思わず零れた独り言みたいなオレの言葉に、母ちゃんが反応した。
「それがね、まだ迷ってるんだって。そうよね、特待生とかってなると、色々と大変だしね。そもそも寮生活になるから潤くんのママも心配な所もあるんじゃない?」
そんなもんなの?って聞いたら、どんな親だって、子供の選ぶ将来は心配するものなのよって母ちゃんは笑った。
麦茶を注いだグラスを持って自分の部屋に戻って、机に向かう。
ここのところ毎晩みたいに来ていた潤くんを思い出す。
オレのベッドに寝転んで漫画読んで。
それって、ほぼ進路が決まったからの余裕って事だったのかな?
ちっちゃい時からずっと一緒の潤くんが、誰かに認められてその将来に期待されている。
それはオレにとっても嬉しい事だ。
だけど、本当にその高校に行くってなると、初めてオレ達は離れ離れになるんだ。
上手く思い描けない自分の将来。
そして、それよりも早くに訪れるかもしれない潤くんとの離れ離れの生活は、その自分の将来よりももっと想像すら出来ない。
何で言ってくれなかったんだろう。
胸の奥に引っかかってるモヤモヤは、少しづつ大きくなっていく。
理屈ではわかってるのに、気持ちが追いつかない。
もうすぐ、何かを選ばないといけない。
みんなが、それぞれの何かを選ばないといけない。
だけど、オレにはその選択肢すらまだ手に出来ていない。
どうしたらいいんだろう。
開きっぱなしで机の上に置かれたノートに、何を書いていいのかすらわからないくらい
オレは自分で自分の気持ちがわからなくなっていた。
その日の夜もまた、潤くんはオレの部屋に来ていた。
ガタガタってベランダで音がして、カララって窓が開いて。
いつもと同じように潤くんが入ってくる。
あんまり集中出来ていないノートから顔を上げ
「潤くん...いらっしゃい。」
いつもと変わりないように、声を掛けた。
そのままベッドに寝転がって何も言わない潤くんに、昼間感じた気持ちがまた湧き上がる。
「ねぇ、潤くんってば受験勉強大丈夫なの?なんなら一緒に勉強する?」
言ってて何だか変な気持ちになった。
まるで鎌をかけてるみたいだ。
「お前だって受験生じゃん、それに勉強なら翔くんに教えてもらうし」
それってどうゆう意味なんだろう。
勉強しなくても、もう高校決まってるって意味なんだろうか。
それとも、オレには口出しされたくないって意味なんだろうか。
卑屈って言葉がピッタリな自分の気持ちを、潤くんに悟られたくなくて
「そっか・・・そりゃ、翔さんは頭もいいし教え方もオレなんかより上手だもんね」
そんな言い訳みたいな返事で、話しをする事を放り出した。
きっと、まだ決めてないんだ。
絶対そうだ。
いつか話してくれるはずだから、それまで待とう。
そう思ったけど、胸の中にあるモヤモヤはちっとも晴れてはくれなくて。
日を追う事に大きくなって胸を覆っていった。