妄想blです。
お嫌いな方はスルーで。
リビングのパネルの前、テーブルの上には所狭しと並べられた料理。
そして、それぞれが自己紹介をしてパーティーが始まった。
潤くんと大野さんの友達だと言う相葉さんは、どこかで見たことがあるなぁって思っていたら
商店街の電器屋さんだった。
「前に一度、修理で伺ったんだけど・・・覚えてる?」
「はい、覚えてます。世間って狭いなぁって実感してるトコです。」
くふふって独特の声で笑う相葉さん。
「しっかし、このパネル!迫力ありますね!!」
「んふふ。気に入ったから、でっかくした!」
ドヤ顔してる大野さんに目を細めてる櫻井先生。
「あんま、見ないでください。何か照れる・・・。」
「振り向くと本人が目の前に!めちゃくちゃ贅沢な空間ですよね!」
パネルと潤くんを交互に見て楽しそうに笑う櫻井先生に、何だかオレもちょっと恥ずかしくなる。
「ところで、なんでこの写真のタイトル【恋】なんですか?」
櫻井先生の質問に、思わず潤くんを見る。
潤くんも同じようにオレを見て、ちょっと焦った顔してる。
「それは・・・。」
この写真を撮影してる瞬間の潤くんは、ニノの事を語っていた。
そして、オレの事も。
それはつまり、潤くんの恋心に触れていた瞬間だったから。
そして、もうひとつ。
オレが潤くんを撮りたかった理由のひとつは
その強さを知りたかったから。
言葉にすると軽くなってしまいそうなほど辛い別れをしたはずの相手を思って、それでも立ち上がって前を向くその強さに惹かれた。
それはつまり、オレの潤くんへの恋心の始まり。
この写真には、潤くんとオレの恋っていうふたつの感情がフィルタリングされている。
だから、タイトルは迷う事なくそれにした。
でも、そんな事恥ずかしくて言えないから!
それは潤くんも同じみたいで、二人で顔を合わせて、うんって頷いて。
「タイトルについては・・・秘密です。」
そんな言葉で櫻井先生の質問を濁した。
ただひとつ、結果を受けて思うのは
潤くんの柔らかな雰囲気とじんわりと胸を暖かくしてくれるような思いを表現出来たとは思うけど、オレが感じたあの強さを表現するには
何かが足りなかったように思う。
だから、結果として大賞を逃して次点の賞になったのかもしれない。
その証拠に、これを見てくれる櫻井先生にはタイトルがイマイチ響いてない。
「でもさ、松潤のこの目はきっと、カメラ越しのにのちゃんを見てるよね。すごく優しい顔してるもん。」
パネルを見ながら、相葉さんがしみじみと言ってくれた。
「相葉さんは・・・そう思う?」
「うん、思う!目は口ほどに物を言うでしょ?!」
くしゃっと笑う相葉さんの笑顔でその言葉を素直に受け取れる。
この人もまた、すごく魅力のある笑顔をする人だ。
「・・・なるほど。そう考えると、この写真の見え方が変わってきますね。」
唇を触りながらもう一度パネルを見つめる櫻井先生。
考え込む時の癖が出てる。
「翔ちゃん先生は固く考えすぎだと思うよー。」
櫻井先生の肩をぽんぽんって叩く相葉さん。
「翔ちゃん・・・先生?」
「あ、ダメだった?翔ちゃんだと馴れ馴れし過ぎかなぁと思って。でも、せっかくの出会いだから仲良くなりたいって思って。」
「いや、新鮮でビックリしました。」
そんな二人のやり取りを見て、何だかこの二人も一気に距離が縮まりそうな気がした。
相葉さんの言葉のとおり、せっかくの出会いなんだ。
どうせなら、仲良くなりたい。
相葉さんのその言葉をきっかけに、何だか雰囲気も解れて。
結局かなり遅い時間までパーティーは続いた。
最終的にはオレのお祝いなんだか、ただの飲み会なんだかわからなくなっていたけど
それでも楽しかった。
海岸通りの道を歩いて、潮風を受けながら潤くんの家に向かう。
見えてきた門柱にかけられた看板は最近新しくなった。
今までのシンプルなデザインのものに、加えられた人魚の尾びれのシルエット。
そっと、それに触れる。
太陽に照らされたプレートから、その熱が指先に伝わる。
あの日、潤くんの目の前で消えたニノは
ここにいるような気がした。
全てを思い出したわけじゃない。
だけど、断片的にある記憶のピースのその全てには、潤くんへの思いに溢れている。
きっと、ニノは潤くんと歩きたかったんだと思う。
伝えて、受け止めてもらえた思いはその先を望む。
本当の意味で、潤くんと歩いていこうって思ったんだろう。
潤くんがそうだったように、人魚ではなく、人になりたかった。
だから、ニノは消えたんだ。
・・・オレに戻るために。
突然の辛い別れはきっと、オレとして潤くんともう一度出会う為だったんだ。
繋がった思いだからこそ別れなければならなかったのかと、思うとほんの少しだけ複雑な気持ちになるけど。
だけど、その思いはきっとこれからのオレと潤くんが昇華していくものなんだ。
迎え入れてもらった部屋の壁に飾られているのは、パーティーの時に大野さんが大きく引き伸ばしてくれたあの写真のパネル。
あの後、潤くんの家に飾る事になったのは、オレと潤くんが公私共にパートナーになったから。
常に一緒に仕事をするわけじゃないけど、何かあればお互いに一番に思い出す。
仕事においても、プライベートにおいても。
そんなオレ達に、大野さんがこのパネルをプレゼントしてくれた。
「ニノとの出会いがあったから、かずが今この腕の中にいるんだ。」
潤くんがオレを抱きしめながらよく言うその言葉。
ニノとの出会いと別れを経て、歩き出したその視線の先にオレとの未来。
あの看板のシルエットとこのパネルは、案外ロマンティストな潤くんらしい配置なのかもしれない。
「かず、そろそろ一緒に住まない?一緒の方が、何かと便利でしょ?」
「まぁ、一緒に住んだ方が便利かもしれないねぇ・・・。」
隣に座る潤くんの提案をそんな言葉で濁した。
だって、便利だから一緒に住もうって
普通そんな理由、ないでしょ?
そう考えて、オレも意外と潤くんに負けないくらいにはロマンティストなのかもしれないって
心の中で苦笑した。
一度は全てを捨てて、海に沈んだ。
仕事も、人間関係も、生きることすらも
全部手放した。
手放したら、人魚になった。
そうして、潤くんと出会った。
潤くんに恋をして、人になりたくて
月の光を魔法みたいに使ってこうやって
もう一度出会っちゃうんだもん。
ねぇ、潤くん。
そんなオレと一緒に住みたいのなら
もっと素敵な言葉を用意してくれないと
素直にうんって頷けないよ。
そんなオレの思いを知ってか知らずか。
隣にすわる大好きな人が
そっと肩を抱いてくる。
素直にその肩に頭を乗せれば
微かに聞こえる規則正しい振動。
それはまるで、あの海で聞いた波の音みたいだった。
おしまい♡