お嫌いな方はスルーで。
今日の分の仕込みを終えて。
カウンターの内側、スツールを出して腰掛け
雑誌をペラペラと捲る。
今日の『 バンビズ 』の予約は2組。
一旦コンロの火は落として、味が染みるのを待つ間に流しながら捲っていくページはファッション雑誌。
ひと月毎に変えるコースの締めのデザートのヒントになりそうな色合いを無意識で探すように目で追う。
さっぱりしていて、見た目も涼し気で・・・。
そうやって、留守番という名のかずを待つ時間をやり過ごす。
だけど、今日はそれにプラスして
もう一人の帰りを待っていた。
今日、まーが帰国後する。
まーは元々は動物カメラマンをしていたけど、その写真の躍動感を買われ、世界で活躍するダンサーのサトシ・オオノの専属カメラマンになった。
それはつまり、活動が世界各国になるってことで。
契約の時は翔くんと揉めたみたいだけど、俺は何の心配もしなかった。
だってあの2人だから。
俺が側で見てきた2人なら、きっと大丈夫。
その証拠に、帰国する毎に2人の絆は深まっていくみたいで。
もうどっかの国で同性婚しちゃえばいいんじゃねって思うくらい。
そんなまーが、やっと帰国するんだから
翔くんは店もそこそこに空港まで迎えに行った。
カランと鳴ったドアベル。
重たいドアを開けて入って来たのは、かずだった。
「じゅんくーん!重い・・・手伝って・・・。」
台車に乗せてはいるけど、それに積まれたケースは軽くかずの顔半分を隠すくらいで。
慌ててカウンターから飛び出して、その台車を引いてやる。
裏口のドアは段差が大きくて。
今日みたいに注文の多い日には、フラットな表の入り口から搬入してもらうようにしている。
「かず、大丈夫?」
カウンターの中、定位置に一つ一つケースを下ろしていくかずを手伝って、最後のひとつも無事に下ろし終わり、声を掛けた。
「ありがとー!お店、最近発注多くなったよね。お客さんまた増えた?」
「うん。やっぱり翔くんのカクテル、上手いから。」
「それだけじゃないでしょ?料理も凝ってて美味しかったって、ネットのクチコミで見たよ。」
「マジ?嬉しいなぁ。」
納品書と受領書を受け取り、内容を確認して
受領書の方にハンコを付いてかずに渡す。
それをちいさなファイルに挟むのを確認してから、冷蔵庫から冷やしたアイスコーヒーをグラスに注いだ。
「飲むだろ?」
きっとうちが最後の配達だろうから。
いつからか、こうして少しだけ休憩していくかずとの時間が毎日の楽しみになっていた。
俺とかずの関係が変わると、この時間も少しだけ変わったような気がするけど、顔を見れるだけで嬉しくなるのは前と一緒かな。
俺の座るスツールの正面に座るかず。
手を伸ばせば触れられる距離に、かずがいる。
そんな幸せな時間を味わっていた。