今日は朝から、どこか気持ちが落ち着かないまま始まった。
先日、創業助成金の結果が届いた。
少しだけ期待していたぶん、封を開ける手がいつもよりゆっくりだったのを覚えている。
結果は、不採択。
その言葉だけでも少し重たいのに、理由を見て、さらに静かに息を止めた。
必要な添付書類が、一つ足りなかったそうだ。
「たった一つ」
そう思ってしまった自分と、「その一つが大切だったのよね」と受け止めようとする自分が、心の中で少しだけ揺れていた。
しばらくその紙を眺めていたけれど、そのままにしておくのも違う気がして、
サポートをお願いしていた株式会社フォレストさんに連絡をした。
申請内容自体には問題はなかったとのこと。
だからこそ、少しだけ悔しさが残る。
でも同時に、「次に活かせる」という言葉が、静かに胸に落ちてきた。
次回に向けては、
最新版の様式を使うこと、
添付書類や署名・押印をリストにして何度も確認すること、
そして文章を少しだけ磨くこと。
どれも特別なことではないけれど、とても大切なこと。
丁寧に整えることの意味を、改めて教えてもらった気がした。
そのあと、少しだけ気持ちを切り替えたくて、外に出た。
特に行き先を決めるわけでもなく、ただゆっくりと歩く。
そんな時間が、今の自分には必要だった。
街の中で、ふと前から歩いてくる女性が目に入った。
やわらかい色のワンピースを着ていて、落ち着いた雰囲気で歩いている。
「あら、なんだか似ている」
そう思った瞬間、ほんの少し違和感があった。
その人の動きと、自分の動きが、どこか重なって見える。
そして気づく。
それは、ガラスに映った自分だった。
一瞬、時間が止まったような気がした。
「……ああ、私」
そう思ったとき、胸の奥に静かな波が広がる。
なんとなく、自分が思っていた自分と、そこに映っていた自分が、少し違って見えた。
少し前かがみの姿勢。肩が内側に入って、首も前に出ている。
アクセサリーを作るとき、長い時間下を向いていることを思い出す。
その積み重ねが、そのまま形になっていたのかもしれない。
帰宅してから、なんとなく鏡の前に立った。
そして、ふと、自分で作ったアクセサリーを手に取る。
お気に入りのネックレス。やわらかな光を持つ石で、これを身につけると気持ちまで整う気がしていた。
そっと首にかけて、鏡を見る。
「あれ…?」
似合っていないわけではない。
でも、どこか違う。
以前感じていた、あの自然ななじみ方が、少しだけ遠い。
「あれ、この石、こんな印象だったかしら…」
そう思ったとき、ガラスに映った自分と、静かにつながった。
変わったのは、石ではなく、自分。
姿勢や、顔まわりのやわらかさ、ほんの少しの表情。
そういうものが重なって、同じものでも違って見える。
しわやたるみも、もちろんわかっていたつもりだった。
でも、こうして向き合うと、思っていた以上にやさしく、そして確かに存在している。
そのまま、少しだけ座り込んで、スマートフォンを手に取った。
「たるみ」「ケア」
そんな言葉で検索してみる。
美容皮膚科のサイトがいくつも並ぶ。
変化のわかりやすい写真。
確かに、きれい。
でも、どこか遠い。
体に何かを入れること。切ること。大きく変えること。
それを選ぶ自分が、まだはっきりと想像できない。
それに、金額も現実的とは言い難い。
「そこまでして変えたいのかしら」
自分に問いかける。
答えはすぐには出ない。
ただ、見ているうちに、少しだけ疲れてしまった。
静かに画面を閉じる。
そのままキッチンへ行き、お湯を沸かした。
今日は、やさしい香りのハーブティーを選ぶ。
カップに注いで、湯気を見つめながら、ゆっくりと一口飲む。
じんわりと、身体の内側がほどけていく。
呼吸が深くなる。
さっきまでのざわめきが、やわらかく静まっていく。
「外側を変える前に、内側を整えたい」
そんな言葉が、ふっと浮かんだ。
助成金のことも、ガラスに映った自分のことも、アクセサリーの違和感も。
すべてが、どこかでつながっている気がした。
焦って何かを変えるのではなくて、まず整えること。
丁寧に確認すること。
それは書類も、自分自身も、きっと同じ。
もう一度、鏡の前に立つ。
同じ顔。
でも、ほんの少しだけやわらかく見える。
「これも、私よね」
そう思えたとき、少しだけ安心した。
受け入れる気持ちと、整えたい気持ち。
どちらも、自分の中にある大切な感覚。
どちらかを否定するのではなく、その間でゆらぐことも、きっと必要な時間。
今日は、大きく何かを変えた日ではない。
でも、少しだけ、自分の内側に戻ることができた。
そしてまた、次に向けて、静かに整えていこうと思う。