『漱石に学ぶ心の平安を得る方法』という本を読んでいるところです。
 作者は、脳科学者の茂木健一郎さん。
 『坊ちゃん』結末のことを、「これはこれで実は温かくて幸せなエンディングなのではないか」とか、『三四郎』については「それにしても、三四郎の恋はまどろっこしい」などと書いてある。
 「正直な感想を書いている」という感じです。
 茂木さんにしては、脳・クオリアとか仮想・不確実性といった言葉があまり出てきません。文芸評論ではなく正直な感想を中心としたエッセイといった感じです。
 取り上げている作品は、『坊ちゃん』『吾輩は猫である』『三四郎』『それから』『門』『こころ』『草枕』『文学論』『道草』『夢十夜』。
 『三四郎』は、なかなか味のある登場人物の広田先生が、(日本のことを)「滅びるね」と言ったり、「日本より頭の中の方がひろいでしょう」と言ったりするところが引用されていて、うれしくなりました。
 『坊ちゃん』と『三四郎』が比較的長く書いてあります。
 江藤淳さんの「決定版 夏目漱石」という本は、なぜかこの2作品については素通りに近い扱いなので対照的です。
 途中、司馬遼太郎の『竜馬がゆく』のことが出てきて、「漱石は竜馬になれなかった人間たちを描いたのだ」とある。これが茂木さんの一番言いたいところなのかもしれません。
 日本の三大国民作家を、夏目漱石・司馬遼太郎・村上春樹とか、夏目漱石・司馬遼太郎・太宰治と書いてあるのを見たことがあるけど、司馬遼太郎だけは、勇気づけられるタイプの小説で、他の人たちと違っていわゆる文学っぱい感じではありませn。
 なお、本書は、夏目漱石の書いた文の引用が多く、しかも、三分の一くらいが、漱石の孫で漫画家の夏目房之介さんとの対談になっていて、少し物足りない感じもしています。