昨年、『TPP亡国論』という本がかなり売れました。
 最近になって、何が書いてあるのだろうかと私も読んでみました。
 TPPについての本なので、自由貿易と保護貿易の話などが中心ですが、財政出動の話も少し書いてあります。その部分を読むと、著者の中野氏は原理主義的と言ってもいいくらいのケインズ主義者だなと思いました。
 少し引用します。

               …(前略)…
  政府だけが、営利企業と違ってデフレであっても、巨額の投資を行い、実際に需要を創出することができるのです。つまり、公共投資こそが、唯一、デフレ下において巨大な需要を生み出す手段なのです。
 公共投資が需要と供給のギャップを埋めれば、需給がバランスして、物価の下落が止まります。物価の下落(貨幣価値の上昇)が止まりさえすれば、企業は銀行からお金を借りて投資するようになり、消費者も支出する方が合理的になります。こうして、民間が投資や消費を増やして需要を拡大するようになったら、デフレは終わり、経済は成長し始めます。そうなったら、政府の公共投資を減らしてもよくなります。むしろ、この段階に入ったら、政府は、今度は需要を拡大しすぎてインフレを引き起こさないように、注意しなければなりません。
                 …(後略)…

 大変楽観的な意見なので驚いてしまいます。
 1990年代、宮澤内閣や小渕内閣などで巨額の公共投資を行いましたが、「デフレは終わり、経済は成長し始めます」ということは一時的にしか起こらなかったのではないでしょうか。そして「そうなったら、政府の公共投資を減らしてもよくなります」ということにはなかなかならないので、みんな苦労していたのではないでしょうか。
 この部分に関しては、かなり原理的なケインジアンの意見だなあと思いました。
 「今までの公共投資はなぜうまくいかなくて、今回はなぜうまくいくのか」ということが全然書いてありません。肝心のところが書いていないのが困ったところなのですが、この本はTPPに関する本なので、その部分は中野氏が書いた他の本に書いてあるかもしれません。
 今のところ、公共投資の有効性について、私自身はなんとも言えません。中野氏や中野氏と似た意見の人が書いた本を読んで考えてみたいと思っているところです。