石原氏尖閣発言 領土保全に国も関与すべきだ(4月19日付・読売社説)
 
 沖縄県石垣市にある尖閣諸島を東京都が買い上げる。そんな計画を、石原慎太郎知事が訪米中に講演で明らかにした。

 これを受けて、野田首相は国会で「所有者の真意を確認し、あらゆる検討をする」と述べ、都に代わって国が保有する可能性に言及した。

 「東京が尖閣諸島を守る」という石原氏が、国の領土保全のあり方に重要な一石を投じたと言える。石原氏には、領土問題への関心が薄い民主党政権に意識改革を促す意図もあるのだろう。

 尖閣諸島は明治時代、日本の領土に編入された。政府はその大半を80年前に個人に払い下げた。相続や譲渡によって所有者が交代したり、複数の購入話が地権者側に持ち込まれたりしたという。

 都が購入すれば不安定になりがちな個人所有から抜け出せる。

 石原氏によると、購入の対象は尖閣諸島の魚釣島など3島で、都と地権者は既に大筋合意し、詰めの交渉を進めている。

 購入資金は、寄付を募る案もあるが、多くは都民の税金で賄うと見られる。購入の前提となる都議会の承認など、石原氏の構想実現には高いハードルもある。

 肝心なのは、尖閣諸島を長期間、安定的に維持、保全できる体制を整えることである。

 政府は2002年、尖閣諸島を地権者から借り上げた。日本人の無許可上陸や外国人の不法上陸を規制しやすくするためだ。

 都が購入するとしても、領土保全に必要な外交・防衛の権限を持っているのは政府だ。中国などとのトラブルが想定される以上、やはり政府が関与すべきだろう。

 政府と都は今後、緊密に協議、連携しなければならない。地権者側を交えた3者で話し合いを進めるのも一案ではないか。

 中国政府は石原氏の発言に「日本のいかなる一方的措置も違法、無効である」と反発している。だが、中国の領有権の主張には歴史的にも国際法上も無理がある。

 尖閣諸島を巡っては、中国の巡視船が先月、日本の領海に侵入した。中国側の挑発的な行為が続いているのは問題だ。

 日本政府は、大型の巡視船を尖閣周辺海域に配備するなど、海上保安庁の監視体制の拡充を図る必要がある。

 尖閣諸島のような離島で、海上保安官が、外国人の不法上陸などの犯罪を取り締まることを認める海上保安庁法改正案は、すでに国会に提出されている。与野党は早期に成立させるべきだ。

(2012年4月19日01時12分 読売新聞)

<コメント>
 海上保安庁法案改正案について早期成立を求めているところはいいと思う。
 尖閣の民間人保有については、「政府はその大半を80年前に個人に払い下げた。相続や譲渡によって所有者が交代したり、複数の購入話が地権者側に持ち込まれたりしたという」と書いてある。
 この部分はもう少し詳しく書いてあるとわかりやすかったと思う。
 それと、「民間人が保有し、政府が民間人の権利を守る」という形にしておいた方が何かと都合がいいからわざとそういう形にしてある。
 という説があるが、それについての評価が書いてない。
 結論や全体の流れはだいたいいいと思うが、欲を言えば、上記のようなことが書いてあればもっとよかったと思う。

<本の紹介>
 日本の領土問題 北方四島、竹島、尖閣諸島 (角川oneテーマ21)
 「今、すぐに対処しないとあの領土は永遠に戻ってこない」という危機意識に基づく、日本の領土問題についての優れた解説書。
 保阪正康氏と東郷和彦氏の共著。

 日本の国境問題 尖閣・竹島・北方領土 (ちくま新書 905)
 一方向的なナショナリズムの視点を離れ、相手国の視点も取り入れて冷静に国境問題の歴史的経緯を明らかにしている好著。