タイトル「源さんの戯れ言」
テーマ「バカふざけ話」(1~200)
源さんの戯れ言
BF143「物価高」
物価高に挑戦するラーメン屋
奥信濃の街外れでコロナ禍のなか細々と食堂店を営む子ずれ三人の夫婦がいた。最近、原材料価格の上昇と円安の影響でまともな経営ができなくなってきた。そこで仕方なく夫はタクシーの運転手に早変わり、その夫は時々お客を乗せては妻が営む食堂に連れてくる。
だが、お客はご飯ものを注文してはまずいと文句を言うようになった。食堂をやってお客にまずいといわれることが一番辛い。値上げした張り紙を眺め、食うだけ食って財布の紐は硬く、値段のわりに文句の一言もなく立ち去れないのだ。このコロナ禍にも悩まされ、更なる物価高にも悩まされる。世の中おかしいと夫は怒り出した。タクシーだって儲けの歩合せいだから運賃を上げた途端ピタリとお客が減った。
子ずれ三人の妻は悩んだ。まともな対策ではこの景気は切り抜けぬと感じた妻。本能的に様々な営為が脳裏を駆け巡った。それでも浮かんでは消え、浮かばせては縁遠いとあきらめた。それでもやっとのことで、品数は多く作らず単に餃子とラーメンと飯だけのうまいといわれる店を目指そうとした。子供は三人。資金はゼロ、やるからには命がけだ。
すると、こうしてはいられぬ妻は、タクシーの運転席でいつも日向ぼっこの夫を辞めさせ、二人で餃子とラーメンの専門店をやろうと決心した。野菜は集荷場から撥ねだしをただ同然に集め、肉や小麦粉も工夫に工夫を重ね安く仕入れるように考えた。そして、品数は作らず単に餃子とラーメンだけのほかにはないうまい店を目指した。だが、その特徴ある美味い餃子とラーメンをどのようにしてつくるかが分からない。飯はおまけの品だが大人が、大盛ご飯だけでは満足しない。美味さと量だ。
他の店にない、うまいものの工夫に突き当たった。それはどうすればいいのかこれからが勝負なのだ。いや、勝負ではなく、限りなく続く戦いなのだ。これで良いというものは恐らく目の前には表れないだろう。
単なる餃子とラーメンなら今だって直にできる。だが、それではこの物価高に安心してお客が訪れることはないだろう。安くて美味くて量もあるものだ。それでそこそこ営為ができたらそれでいいのだ。
タクシー会社を辞めた夫は悩んだ。すると夫は何に悩んだのか、街道添えのトラックなどの定期便がよく止まる、ある食堂に何を思うのか出かけて行った。トラックなんて運転手は一人、よくても二人だ。観光バスのような大勢のお客が降りてくるはずなどない。
この様子をみていた妻は腹を男のようにポンと叩いた。何やら得たものがあるようだ。

