ことわざ漫談小話
ことわざ小話 301~400
K360「搗いた餅より心持ち」20230105
これは「くれる品物より、
それを送るその心がうれしい」
と解しましょう。
それではその物語りを
つくりましたのでご披露いたします。
何やら年末に怪我をし、働けず食うもんが無くなった親狸
空腹の子狸等のためにも何とかせにゃならんと、悩む狸。
信濃の山奥では時々和尚に世話になる狸おった。
和尚は仕事やら会合などでつい遅くなり、何があったやら何時もなら途中まで迎えに来るはずの小僧の姿も今日に限って見えない。すっかり陽も落ちた。会合の後で飲んだ酒もまわって、山道のその道すりゃはっきりとわからなく、辺りは暗闇だ。
そんな時、真っ暗な夜道を提灯に化けては夜道を照らしてくれるのがいつものの狸だ。狸は提灯に化け、その提灯をユラリユラリと揺らすものだから足元がよく見えず、石につまずき転ぶ。
この時、狸はてんぷらの入った小僧への土産をこっそり和尚から抜き取る。和尚は酔っているからわからずまい。このような提灯に化けた狸と小僧を、馳走になって酔った和尚はよく間違えることがあった。
提灯に化けた狸
ところが、
その狸の思いがけぬ怪我で、食べ物不足に家中の狸等が腹を空かし、どうにもならなくなっていつものの寺の戸をたたいた。夜も更けた寒空、その凍てる冬の軒下で、ちょこねんと、寒さに震えながら両手を合わせ、目をぱちくりさせ申し訳なさそうに何度も何度も頭をさげる。
その狸をよく見ると怪我でもしたのか左足に包帯が巻かれている。それも日がたつやら随分と黒ずんでいた。
物価高の世の中、狸の世界だって同じこと。何かと言えばギクシャクともめる隣のケチな狸から魚を貰うとしてもなかなかとうまくはいかず、先々の恩を考えると何かと面倒で高上りと考えた狸。それやったら人のよさそうな、山寺のあの和尚なら大丈夫と寺の戸をたたいたのである。
和尚はそのみすぼらしい姿に笑みを浮かべ「何だ、またお前か」というなり、明日の朝食べる飯を椀に山盛りもっては紙に包んで、腹を空かしたその狸に渡した。貰った狸はひもじい子狸でもいるのか、和尚の手からそれを奪い取ると挨拶どころか一目散に山めがけ不自由な足を引きずって飛んで帰った。
狸の 小楢の枯れ葉
狸に言わせればこれは小判である
それから何日かした朝である。
竹ぼうきを持った小僧がブツブツ文句を言いながら寺の縁の下を掃除していた。それは、またまた狸が持ち込んだ小楢(こなら)の枯れ葉の小判であった。つまり何の変哲もない、ただの枯れ葉のゴミである。和尚は又しても狸に騙されたと感じたが、あの足の引きずり方は演技ではなく本物だったと振り返った。
そして和尚は、狸にも人さまに負けぬ心があるものだと頷き微笑んだ。そしたら和尚は、縁の下のその枯れ葉をみて「儂は碗一杯のご飯を小判十枚で売った!」と、妙なことを言って笑っていた。更に「この寺もまだまだ大丈夫だ。ほれ!、縁の下には小判が何枚も転がっているじゃないか」と、妙なことを言っては腹をたたいて笑っていた。
和尚のその姿を見かねた小僧。
これはいかん「和尚さま、大事なされませ和尚さま。先はまだまだ長いですよ」と、
小僧は竹ぼうきを放り投げ和尚に駆け寄って来た。
お終い



