ことわざ小話 201~250
K209「短気は損気」
昔々ある田舎の奥深い山の、その山寺の近くに気の短い狐と狸がおってなぁ、その気の短い狐は油揚げが大好きで、また、気の短く短気な狸は魚であればどのような魚でも大好きだった。またその寺の和尚は、これまた忙しさが自前の短気に負け、湯加減をみずにまだ冷たい風呂に入るようなとてもそそっかしい気の短い和尚さんであった。
だが、この寺の和尚は酒がめっぽう好きで、酒際あれば短気も伏せ気が長くなり、更にお人好しとなって何につけても良しよしと穏やかな気性の和尚となるので村では酒飲みの和尚と言われていた。その村の法事とあってはふるまわれた酒に酔い、穏やかな成りからその帰りには、余りものと言っては油揚げや天ぷらなどが風呂敷に包まれた。
これに目をつけた要領の良い狐と狸は、互いに知恵を出してその和尚から油揚げや魚を分捕る作戦を練ったのである。あわてん坊の狐は古い井戸水を酒ににわかに変え、せっかちな狸は笹を小魚に急いで変え、柏の葉っぱを大きな天ぷらに変えた。
それを、狐がこれぞとばかりの怜悧な娘に化け、狸ときてはその娘に寄り添うイケメン小僧に化けてその和尚の前に旨そうな酒と、これまた絶品な酒の肴を差し出した。和尚はよだれを垂らしてこれを歓迎歓待したのである。
だが、狐は人を騙すに化けることは上手であっても、ものをにわか化かす工夫には思考も手芸も足らず、更に短気が上塗りになって和尚の前では井戸水の酒はみるみる馬の小便となり、狸の工夫の足らぬ笹の魚や葉っぱは何ともきみの悪いナメクジや牛の乾いた糞に変化してしまった。
これに怒った和尚は鉄砲を持ち出し、寺の中で逃げ惑う狐や狸に向かって鉄砲を打ち鳴らし、とうとう大事な寺を壊してしまった。
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