笑いのつぶやき
笑いの散歩151~200
198「種切れ」
この「種切れ」とは、もとにする材料などがなくなることです。それじゃ、なにかと商売をしている方には困ったことになります。商いをしているのだが売るものがない!これって、どうすりゃ良いの?噺家(はなしか)が種切れになったらどうするの?落語なんて、もぅ、終わりだよ。なんてならないように何か面白いおはなしをします。
八百屋の八ちゃんと魚屋の熊さんとの「もぅ、売る魚がない」の巻。
「あれ!今日の熊は、えらく困った風だなぁ?」
今夜の酒の肴は何にしようかと、魚屋の熊のところにきてみたのだが、どうも店の中も普段から威勢のいい熊の様子がどうもおかしい?
「おい、熊」
「おおぉ、八ちゃんか」
「八ちゃんかじゃねぇだろう、ええぇ、しょんぼりしやがって」
「そ、それどころじぇねぇんだよ、売る魚が急に無くなっちまったよ」
「何だとぅ、急に・・売る魚がなくなっちゃったぁ?」
「そうだよ、うちの魚屋に・・売る魚がないのだ」
熊は珍しく、朝から威勢のいい大声を出しながらお客を呼び込んでいた。だが、何時の間にか売る魚がないことに気付いたからさぁいけない。売る魚がないと知った熊はだんだん怖くなって、到頭体が振るいだした。その体の振るいもなかなかおさまらなくなっちまったのだ。熊の、その体はでっかいなりして、気はまるで蟻さんのように小さいのだ。
「魚屋に魚がないとは恐れ入って、話しにもならぬ」と、今夜の酒の肴と洒落こんだ八ちゃんはがっかりしたのか到頭怒り出した。
「最初はよかったのだが、こうなるとは知らず今日の魚は新鮮で安いよと、大声を出しすぎた」
「おい熊、魚を何とかせえ」
「え!魚を何とかせえ?」
「当たり前じゃないか。魚は売り切れたと言っても、熊がお客を騙したのだから何とかせねばお客は帰らぬぞ」
「そうだよなぁ、八ちゃん。まさかこのようになるとは思わなかった」
その困り果てた熊は「かまわねぇから八百屋から野菜もってきて、ここで大根やニンジン、白菜やジャガイモを並べて売ろうよ、なぁ、八ちゃん」と、とんでもないことを言った。
すると八ちゃんは「バカやろう、何で魚屋が、魚でもない野菜を売ろうとするのだ?」と言い「ええ、そんなこと言っている間に、どこでもいいから魚を仕入れて来い」と、また気の小さな熊を怒鳴りつけた。
だが、八ちゃんのでっかい大声など、熊の小さな耳の中には入らないと見え、
「ようし、こうなったらなぁ、魚といわず、猫でも犬でも、何でもかんでもうちの魚屋に持ってこい。みんな安く売ってしまうのだ。それが商いというものだ」と、一人合点ところてんと、断然威勢も顔色も良くなった江戸っ子の姿になっちまった。その勢いは止まらず、
「肉屋のサブちゃんに肉を頼んで、八百屋の八ちゃんにも野菜をいっぱいもってきてもらって、御茶屋の、あの気難しい親父にもお茶をたのんで、それから・・なぁ・・」
「それから、何だとう?こら、魚屋に、どうして野菜やら肉、それにお茶などをならべるのだ?いい加減にしろ」
「だって、うちは魚切れなのだ」
「何!魚が・・切れた?」
「何度も言わせるなよ、八ちゃん」
「バカ、魚切れを刺し身というのだ。俺は刺し身を肴にしたいのだ」
お後もよろしいようで「種切れ」でした。
それでは、今日はこれでさようなら、またお会いしましょう。思うようにペタお返しできなくて申し訳ありません。(*^▽^*)