ことわざ漫談小話
ことわざ小話51~100
53「娘ひとりに婿八人」
このことわざは、ひとつの物事に対して希望者がひじょうに多いことです。希望者が多いので抽選で当たった方に差し上げますなど、たったひとつしかないものに大勢の方が欲しがる。さぁ、それは何でしょうか?ばかばかしいお話しで、このお話は江戸中期ごろの設定でまいります。
「おい、番頭の喜助はおるか?」
「へぇ、これは旦那さま。随分と早いお帰りで」
「え?どうした。そのように驚いた顔をして?ワシが早く帰って来ては迷惑とでもいうような顔付きだなぁ?」
「これは旦那さま、そのようなことはないですよ。ただ、今日の旦那さまは御呼ばれした湯屋の大和屋さんのところで、大勢の方とご一緒にお泊りのはずではなかったですかなぁ?」
「それがなぁ・・喜助・・」
「これは旦那さま、どうかなさいましたか?」
「あの大和屋は、友人や友達といって大勢集めて何をするかと思ったら、ええ、これが驚くことにうぐいすの鳴き声の、ものまねごとだ」
「え?うぐいすの鳴き声の、ものまね・・これは旦那さま、ものまねと言っても、あの大和屋の大六兵衛さまがなにをなさったのですか?」
「それが、噂とおりの古びた骨董を幾つも出して、その中の名器の茶わんを、うぐいすの鳴き声がイチバンうまいものにくれるというから、あの湯屋の館はどこもかしこもうぐいすだらけで落ち着かなかった」
「え?それじゃ旦那さまは、うぐいすもご存知なく、嫌気の挙げ句お帰りとなったのですか?」
「おお、喜助は、吾が心を分かっておるな」
「いいえ、分かりません」
「なに、分からない?」
「それは旦那さま、勿体無いことをしましたねぇ」
「え?なにが勿体無いというのだ!?」
「春一番のうぐいすの鳴き声は下手な鳴き声がイチバンだったのに、残念なことをしましたなぁ旦那さま。今頃、あの大和屋の大六兵衛さまが、旦那さまのお姿が見えないと、寂しがっておりましょう」
そんなこと知りませんよ。第一、名器と言われる茶わんですよ。そりゃ誰だって透き通るようなうぐいすの声がききたかったのではないですか。ええ?そうじゃないですって・・。ああ、大人の世界はわからない。
うぐいすの鳴き声を真似ても
カラスの鳴き声が楽という 源五郎