笑いのつぶやき
笑いの散歩51~100
55「目移り」
これは、他のものを見て、そちらの方に心がひかれること。または、おおくのものを見て、あれこれと迷うことです。みなさん、そのようなことはありませんか。それでは毎度のばかばかしいお話しです。
「おい熊、御茶屋の次男坊がお見合いしたら、まえの方が良いと言い出して断りながら困ったと奥さんが言っていたよ」
「何だ、御茶屋の次男坊、それがどうした?」
「だからなぁ、御茶屋の次男坊が、この前お見合いしたら最初にした方が良いと言い出してなぁ、お茶屋の、あの奥さんが困っていた」
「そんなこと、ええ、八ちゃんが心配することねぇよ」
「俺は、何も心配などしないよ」
「それはなぁ、子は親に似るということわざがあるだろう。それだよ」
「え?子は親に似る」
「何だ、ええ、八ちゃんはそんなことも知らないのか」
「いや、知らねぇことも、ねぇだろうが、ええ、熊は驚かないねぇ?」
「そんなことでいちいち驚いていたのでは、この魚屋はやっていかれないよ」
「へぇ、そんなものか?」
「やろう、まだ分からないのか?」
「いや、分かっているのだが、おれの心にズシンと、こないのだ」
「あ、そうだったか。そりゃ八ちゃんだって、今夜の酒の肴はどれにするかと、ええ、あっちの魚を撫でちゃ戻し、こっちの魚とにらめっこしちゃまた戻す。そばで見ていた泥棒猫に、ふんぎりのつかぬオトコと心配かけるほどあっちやこっちと悩む八ちゃん、それだよ。分かったか?」
「何だとう、目移りしてどこがわるい。酒の肴は男の悩みなのだ」
ああ、みんなヒトは些細なことで悩むのですよ。悩みながら、後悔しながら生きているのです。そばの泥棒猫がニャンと鳴こうが、晩酌の酒の肴くらい大いに迷ってください。迷ってあとで後悔したって、そりゃ、へっちゃらの屁のカッパですよ。
やっと涼しくなった今日この頃、源五郎