ことわざ漫談噺
ことわざ落とし話1~30
9「正直の頭に神宿る」―前編―
ことわざ「正直の頭(こうべ)に神宿る」と言って、正直な人には神の守りがあるということです。普段から正直なつもりでも、困りにこまってウソをつく人は私も含めてほとんどの方にご経験があると思います。こんな疑いでものをいうと、そりゃ神の助けも受けられず路頭に迷いますが、ウソをつく、ウソを言うことは自分を守ろうとする最大の苦肉の策でもあるのです。
ウソにもいろいろなウソがあります。あんなウソ、こんなウソ、ひどいウソ、勘弁ならぬウソ、とんでもないウソ、何でもないウソ、ウソでない本当のウソ、何だかわからなくなってきました。まぁウソはいけないと思っても、これぐらいなウソならいいやと、ついやってしまうものです。これなどは屁と同じかもしりませんぞぅ。人には分からずする、あの屁のことです。人前でする屁はなんか嫌な感じがします。それに臭いのが、これまたいけませんね。ウソもバレもしたら、そりゃみっともないし、恥ずかしいし。ウソは泥棒の始まりですぞ。
それじゃ、まいどのばかばかしいお話しです。三ちゃんと、山田の「ウソの天秤の重さはどれくらい」の巻きです。
「これ三ちゃん、ウソはいけないよ」
「何だとう?」
「ウソだよ」
「なに、味噌?」
「味噌じゃない、ウソだよ、ウソ」
「ウソ?」
「俺達はこうして長年友達になっているじゃないか、それなのに三ちゃんは時々ウソをつく、そうだろう三ちゃん」
「綺麗事を言うな。ウソも方便と言ってなぁ、時と場合によっては仕方ないのだ。分かったか、カワウソめ」
「え?カワウソ」
「ああ、カワウソとは、お前のことだ」
「え!俺がカワウソ?」
「そうだよ、お前のように暇にまかせ、奇麗事をならべて遊んでいるのがカワウソの水浴びというのだ」
「え?カワウソの・・水浴び」
「そうだよ、分かったか?」
「へぇ!それじゃなぁ、カワウソというのは奇麗事をどんな風にならべるのだ?」
「何、カワウソは奇麗事をどんな風にならべるかだと。このやろう、この忙しいのにそれを説明しろというのか?」
「三ちゃん、そう、怒るな」
「それじゃ説明しよう。良いか、或る時なぁ、イタチの争いを眺めていたカワウソがいたのだ。そのカワウソは、双方のイタチがウソをお互い八百ならべてもなかなか決着がつかないイタチごっこを見かねてなぁ、そのイタチの奴等はウソの方便も知らぬ機転の利かぬ愚か者と、言い争うそのイタチ達に近づき、そのカワウソはウソとは思えぬ奇麗事をならべ、このカワウソのウソに麻痺したイタチを騙してなぁ、このカワウソの話はもっともだと思うようになったイタチから獲物を横取りしたのだ・・・」
「・・え・・どうだ?ええ、分かったか?」
「え?わかったか・・どうしよう、こまったなぁ」
「何困っているのだ、分かったかと聞いているのだ?」
「あのなぁ三ちゃん、ええ?何だ、分かったような、分からねぇようなやっとしゃべりだした赤ん坊のような喋りだから、こりゃなぁ。え!カワウソがイタチから獲物を横取りした。それじゃ、そのカワウソはとんでもねえ奴じゃねぇか?」
「ああ、とんでもねぇよ。それが、なぁ、今の、お前だよ」
「え!それじゃ何か、俺は、カワウソかよ?」
「あたりめぇじゃないか、ええ、そうでなかったら、お前は何さまだよ」
「それじゃ何か、ええ、三ちゃんはイタチか?」
「このやろう俺がどうしてイタチなのだ?俺は、真正直な人間さまだ」
「え?真正直な人間さま。そりゃおかしいなぁ、だって、三ちゃんはそんな格好していつもウソ八百ならべているじゃないか?ウソ八百はイタチの特権だろう」
「何だとう、俺がウソ八百ならべる・・イタチだって?」
「だってなぁ、三ちゃんは、ほれ、今それをしていることを仕事と言った」
「それをしていることを仕事?これが、仕事ではいけないのか?仕事、それがどうしたと言うのだ、ええ山田?」
「さっきは、お前が傍にいると、お前が邪魔でパソコンが打てないといった。だが、最初は仕事といった」
「じれったい奴だなぁ。だから、それがどうしたというのだ?」
「だからもラクダもないのです。何度も言うように、三ちゃんは相変わらずウソをつく。相も変わらずのウソつきだから、三ちゃんの心はウソの塊となっているのだ」
「何!俺の心はウソの塊だ?なんでウンコの塊みたいなことを言うのだ、ええ」
「そうですとも、そりゃウンコです。自分の用事を仕事と言った。そのプライベートなものを仕事と言った。それをいかにも仕事のように偽ってしているのが、三ちゃんの今ウンコの姿なのだ」
「おい、こら、ちょっとの合間に、こんなことぐらい誰だってしていることだ」
「だから、何も、いけないとは言っていません」
「それなら、良いじゃないか。大の男が、いちいち細かいことを言うな」
「それが、なかなかどうして、細かいとは言え、俺は黙ってはいられないのだ」
「別になぁ、構いはしないことを、火のないところに煙りが立ち上るように騒ぎ立てるな。俺とお前の仲だろうが、なぁ」
「え!俺達はカワウソとイタチの間柄と言いたいのか?」
「誰がそんなこと言った?」
「だって、今、俺とお前の仲だろうと言ったではないか?」
「バカやろう。それでは本当にカワウソとイタチになってしまうわ。そうじゃなくてなぁ、今は静かにしていろということだ」
「静かにしたいのは山々だが、三ちゃんは尤もらしいウソを平然とまわりに撒き散らしているのが、僕は気になるのだ」
「何だとう!俺が周りに平然とウソを撒き散らす?」
「はい、自分のウソの山を削っては、辺りに撒き散らしているのです」
「おい山田、お前は何時から、理屈に屁がつくように理屈っぽくなったのだ、男のくせに。それじゃお前とは付き合っていられないなぁ」
「ええ、だって理屈に屁がついたら、やっぱり臭いじゃないですか」
「そりゃお前の屁理屈は臭いよ、俺は多少臭くても我慢しているのだ?」
「え?僕の屁理屈って、なんのことですか?」
「なんのことだぁ?こら、屁理屈、そんなことも知らないのか!」
「理屈がひっくりかえる理屈、そんなことぐらい知っていますよ」
「それなら、もうちょっと、男らしくでーんと構えろ。小さいものにいちいちこだわるな。人間、大きくならないぞ」
「そりゃ分っていますよ。出来立ての彼女にメール打つぐらいややっこしく、面倒なことはありませんからねぇ」
「何?何だとう!こら、出来立ての彼女にメールだと!」
「へへへ、出来立てだからまだ熱いのです。ああしよう、こうしようと、いや、これでは駄目だと気を使うあたりは、痛そうな腫れ物にでも触る思いですね」
「痛そうな腫れ物、このやろう?」
「はい、腫れ物だか、出物だか知りませんが、そりゃ大好きで、とても気になる女の子です」
「こら、山田、お前は何と言うやつだ。俺達は友人じゃないのか。お前というやつはその欠片らもないのか!」
「その欠片があるからこうして、ご注意申しあげております、はい」
「女たらしのカワウソめが、もうメールはやめた。さぁ山田、仕事だ、しごと」
「よろしゅうございますか。それじゃ、本来の仕事を始めましょうか」
「ところでなぁ、カワウソ、いや山田」
「改まって、何でしょうか?」
「昨日の契約書類の件だが、お前、知っているか?」
「え!契約書?」
「ああ、契約書だ。先方の了解はとってあるだろうな。今日の会議で、その報告をしなければならないのだ。分かっているなぁ」
「え! 契約書類の報告。え!この僕が?」
「何だ!山田、忘れているのか?」
ああ、何ということでしょうか、山田は契約書類の報告書を忘れていました。この後の続きは30分後に後編を投稿します。