ことわざ漫談噺 | 源のブログ

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源のブログへようこそ。笑い話を書くことが好きです。ただ今「ことわざ漫談小話」等の笑い話しを創作発表しています。それに季節ごとの俳句や川柳も投稿しています。最近は「戯れ言」も書いています。作品名は画面右下側フリースペースをご覧ください。

ことわざ漫談噺

ことわざ落し話1~30

6(故事)「牛に引かれて善光寺参り」 -前編―

 

〔最初におことわりしますが、これは「ことわざ」ではなく、これまで伝えられてきた「故事」になります。アメブロへの投稿上、テーマ等再度の分類ができまんのでご了承ください〕

 

 この故事はよくご存知ですね。今は昔、信州は善光寺平に住む不信心なる老婆がいて、その老婆が布をさらしておいたら、牛がこの布を角にひっかけ近くの善光寺に駆け込んだ。その牛を追っかけてきた老婆が、ここが霊場と知って極楽往生を願ったという伝説であります。これは、他の者に誘われて偶然よいほうに導かれたということになります。また、自分の考えでもないのについてきたら、思いがけず良いことに巡りあいたということにもなります。 

 

それでは漫談話と参ります。誠にばかばかしいお話ですが、時間までのお付き合いのほどよろしくお願い申し上げます。

商人の旦那と番頭金次の「湯の里」の巻きでございます。

江戸時代も中ごろでございます。お盆も過ぎ、爽秋に入った中仙道のある宿場から少しはずれた温泉宿でのことでございます。旦那さまとは老舗呉服問屋のご縁居で伊衛門と言いまして、家督は既に息子に譲って、その店の番頭の一人の金次を連れての、所謂、昔を懐かしんでする伊衛門商人の道楽仕事でありました。

 

その連れの金次が長旅のせいやら弱音を言うようになってきました。

「ああ旦那さま、おらぁくたびれた」

「これ金次、しっかりせんか、宿はもぅすぐそこだぞ」

「ええ!宿はまだですかねぇ、旦那さま」

「ああ、だからもう少しだと言っているではないか、これ、元気をだせ」

「ねぇ、休みましょう、旦那さま」

「どうした金次、ほれもう少しだ、頑張れ。着いたら飯だってたらふく食って構わないぞ。あと一里三町も歩けば宿だと、ほれ、そこに立て札があるではないか?」

「ええ!後一里三町もあるのですか。ああ、旦那さま、おらぁの、この肩が・・」

「これ、金次。お前の、何時もの元気はどうした?」

「それが旦那さま、荷が、荷が、こんなに肩に食い込んで、肩が痛いのです」

「何?肩が痛い!」

「へぇ、もう我慢もできませんよ、旦那さま。それに、ねぇ旦那さま、ふくらはぎが、これ、こんなに、パンパンに腫れ上がって、少し痛くなってきました」

「なに!ふくらはぎも痛い?」

「へぇ、これ、このとおり旦那さま」

「それはいけないなぁ、分かった。それでは少しこの辺りで休もう」

「ひゃ、助かった」

「金次は修行が足りぬなぁ。達者なやつと見込んで連れて参ったのだが、意外にひ弱い男だ。お前と言う男は根性なしだ」

「え!旦那さま。手前は、まだ修行が足りないですか?」

「ああ、足りぬなぁ。もう少しと言うに我慢できないと言うのであればお前の精神は赤子なみだ」

「ええ!乳飲みの赤子?」

「ああ、もうどうでもよいわ。突っ立っていないで、ほれ、早く休め」

「それは申し訳ございません、この辺りで休ませて頂きます」

「物を売って歩く商人とは、一日三里や五里は歩けぬと、いっぱしの商人にはなれぬぞ、これ金次」

「はい旦那さま。それが、背負った時はそれほどでもないのに、時がたつに従って、だんだんと荷が重くなって、それが肩に食い込んで、この荷が休もうとさっきから手前にきつく当たるのです」

「ははは、金次は反物に嫌われたのだ。よいよい、さぁ、休もうぞ」

「それでは旦那さま、この辺りで荷をおろして休みましょう」

「売れ残った反物も、もうわずかに三貫にも足りない。二人合わせても七貫はないだろう。次の宿場では全部さばいて帰ることができれば尚結構なことだ。それをてこずるようでは商人として銭は稼げぬぞ、これ金次」

「はい、分かりました。それにしても旦那さまは達者なお方だ。おらぁと同じ荷を背負っているが、これまで休もうなどいっぺんも口にしない」

「ははは、まだまだ金次には負けないつもりだ」

「達者な証拠ですねぇ、旦那さまは!」

「なぁに、休もうと思う前に、お前がくたびれたと言うので、こうして助かるのだ。本当は、もうとっくにくたびれているのだ」

「ええ!そりゃ本当ですか?」

「連れの金次に、ウソを言ってどうする」

「それじゃ旦那さま、ここは養生ということで、次の宿で一日ゆるりとしませんか。空模様も明日は雨でしょう、雨では商いもてこずることだから」

「なに!雨だとぅ?」

「旦那さま、西の空模様が、なにかと怪しいですよ、ほら、西の方が、ねぇ」

「うむ、ああよかろう。金次、商いをしながらでもそのように致すか。反物も売れたことだし、荷も随分と軽くなってきた。金次の言うとおり養生としよう」

「旦那さま、そりゃありがたいことで」

「今日で五日間歩き通しだ。それも朝は暗いうちに宿をたち、夕暮れ近くで何時も宿に着く。たまには酒でもちょいとばかり飲んでゆるりと致そう。それぐらいしたって罰は当たるまえ金次」

「え!酒。それは、それは、ありがたや、ありがたや。それじゃ旦那さま、こうして休んでいたのでは何か勿体無い感じがしますねぇ、旦那さま」

「何?休んでいたのでは、勿体無い!」

「そうですよ、旦那さま。こうしてもう休んだことだし、もう少し頑張りましょう」

「何!もう出立か金次?」

「出立だなんて、お宿は直ぐそこじゃありませんか、旦那さま」

「何?すぐそこだ。酒が飲めるとあって、その嬉しさで肩や脛の痛みも治ったか?金次には参った、ははは」

「はい、旦那さま。なんだか嬉しいことが目先にあると、肩にこの脛の痛みなどはその嬉しさの影になって見えなくなってきました。それに旦那さま、お酒が久しぶりに飲めると思った途端、飛べぬ鳥が急に空高く飛べるような気がして、いてもたってもはやじっとしていられないのです。まったく不思議なことですねぇ、旦那さま」

「何?金次は空を飛べるのか!」

この後の続きはすぐ投稿します。