ことわざ漫談噺
ことわざ落し話1~30
28「頭隠して尻隠さず」-前編-
この諺はどなたでもよくご存知です。「頭隠して尻隠さず」とは、そのものの全部隠したつもりが、一部が隠れていない状態を言います。こんなことって、よくありますよね。ほとんどの方が経験されていることです。自分の欠点を隠そうとして隠したつもりが、とんでもないときにポロッと出てしまうのです。相手がこれに気付かなくても、自分と言う判断者がいるからとても誤魔化されないのです。でも、人間誰だって欠点はあるのです。私たちは何等かの欠点を背負って生きています。そんな欠点がたまたま出たって屁のかっぱです。でも、相手に迷惑のかかる欠点は早くなおしましょうね。
それではまた、一席と参りましょう。毎度のばかばかしいお話しです。かおるとご隠居の「愉快な諺論争」の巻き。前編・中編・後編の三回に分けて読んで頂きます。
「じいさん」
「何だ!ええ、また、隣の孫ガキが来たか!」
「じいさまだか、ご隠居さんだか、知らないが、ねぇ一緒に遊ぼう」
「こら、いつも垣根を壊しながら入って来て、ちゃんと表から入って来い」
「あのさぁ、ねぇ、こんな諺を知っているかい」
「また、はじまった。この薄らトンカチが。勝手に一人で遊べ」
「え?薄らトンカチ!」
「何驚いている薄らトンカチとは、お前を言うのだ」
「え?俺等が薄らトンカチ」
「役立たずのトンカチだ」
「ねぇ、じいさん。そのさぁ、薄らトンカチって、どんなとんかちをいうの?」
「垣根を壊しながら入ってくる、うすっぺらな悪ガキの子供をいうのだ」
「へぇ!それじゃ、おいらみたいな子供を言うのか?」
「ああ、薄らトンカチというのはなぁ、一見役にたちそうで、なかなか役にたたないとんかちのことを言うのだ」
「だけどさぁ、薄いとんかちじゃ、なぜいけないの?」
「そんなことはあたりまえだ。良いか、薄いとんかちじゃ、釘がなかなか打てないからダメというものだ」
「それじゃなぁ、おいらは、ダメな子供か?」
「そうかもしれないが、そんなことは、まだ、分からないから安心しろよ」
「安心してよければ、ねぇ、それじゃ、じいさん、諺して、遊ぼう」
「何?ことわざ。きのうやったではないか、ばかばかしい。あのなぁ、じいさんはもう沢山だから他の者と遊べ」
「俺等はねぇ、誰もいないから、暇そうにいるじいさんに決めたのだ」
「暇そうにいるじいさんに決めた?!これ、他になぁ、ばあさんだっているだろう」
「あ、あの、ばあちゃんは、おらの話しを半分だけ聞いて生返事するから面白くないのだ」
「話しが半分で返事がもらえるなら、楽で良いじゃないか?」
「ところがそれじゃ、ちっとも面白くなくて、だめなのだ」
「何で、だめなのだ?」
「話し半分じゃ、とぎれとぎれになって、お話しがつながらないのだよ」
「話しが、つながらない?」
「ああ、そうだよ。話しがねぇ、真っ直ぐに突き進んでねぇ、そして正面の壁にぶつかって、それでお仕舞いなのだ」
「何だ?そりゃ。酔っ払いの運転する車が、壁にぶつかるみたいじゃないか」
「それとは違うな」
「違う?なぜ違うのだ?」
「だって、酔っ払いの運転なら、よろよろと車が曲がるじゃないか。婆さんは真っ直ぐに進んで壁にぶつかるのだ」
「よろよろ曲がっても、壁にぶつかる時はぶつかるのだ」
「あのねぇ、じいさん。壁にぶつかるって、そんなぶつかりかたじゃないのだ。分からないの?」
「何だとう、生意気に、お前が先に壁にぶつかるっていったのだ」
「生意気じゃないの、ぶつかりかたが違うの?」
「なら、なぁ、ええ、お前が壁にぶつかったら、少しは静かになると言うものだ。生意気な子供は、可愛いらしさがないのだ。早く壁にぶつかってこい」
「だから、静かにするから、ねぇ、諺しよう」
「爺はやだ。そんなことはなぁ、婆さんとしろ」
「だから、ばあちゃんは、話しを、半分だけ聞いて、返事するから面白くないとさっき言ったじゃないか」
「それじゃ、何が面白くないか言ってみろ?」
「だって、チリが積もれば山となる、と言えば、ゴミをそんなに溜めてなんとする、と言うのだ。なぁ、まっすぐに来て、ほら、壁にぶつかった」
「ごみをそんなに溜めてなんとする!」
「ああ、そうだよ。そんなこたえ方だよ」
「ほう!確かに、婆さんらしいわ」
「それに、猫に小判と言えばさぁ、猫には魚だ、というし」
「ほう、猫には魚か」
「ああ、とくに秋にとれる秋刀魚はなぁ、猫は大喜びだ、と、てんで俺等をあいてにしない。それだから、話しがとぎれて、ちっとも面白くないのだ。分かる?」
「婆さんは、この頃耳が遠くなったのだ。お前は、婆さんに聞こえるよう大きな声で話しかけたのか?」
「ああ、何度も言い直して、大きな声で言った」
「なら、わかるであろう?」
「だが、変なのだよ。早起きは三文のとくといえばなぁ、お前はまた寝小便したのか、と、言うしなぁ。てんで話がつながらないのだ」
「ええ?かおるは、まだ寝小便しているのか?」
「また、爺まで!そんなことしない。寝小便は、とっくの昔だ」
「いまでも夢を見ちゃ時々するくせに、何がとっくの昔だ」
「夢枕に、寝小便など誰がする。本当だよ。爺じゃあるまいし、誰が漏れ小便などするかって」
「ああ、分った。それじゃ、なぁ、ちょっとだけだぞう」
はーい。前編はここまでです。
かおるはやっとじいさんとお話をするようになりました。この続きは明日投稿しますのでお読みください。