鬼の茶碗が川を流れてきたと、村が一騒動になった翌日。
この日も、おさんの家族は総出で稲刈り。
今年は晴れの日と雨の日の具合が悪かったみたいで、お米の出来はいまいち。
それで村の人みんな沈んでるところに鬼の茶碗なんか流れてきちゃったから、これは不吉なことだって、みんなひそひそ話している。
まだなんか悪いことが続くんだろうか。
「おさん、ちょっと裏山へ行って山菜を採ってきてくれないかね」
「えー今から?」
「今日の夕飯分だけでいいからさ。ちょっとだけ採って帰ってくればいいから。暗くならないうちにさ」
「はあい」
おさんは箕カゴを腰にぶら下げて山に入った。沢づたいに登っていく。
めんどくさいなあと思ったけど、そういえば秋の山は好きだな、私。
いろんな山菜があるから楽しい。
あ、ほら、栗が落ちてるじゃない。大きな立派な栗。
あと、こういう湿っぽい木の根元には…ほらね、やっぱりきのこがあった!
あれ、こんなところに柿の木があったっけ?とれるかなあ。高いなあ。
ちょっと登ってみよう。
あ、あっちのは甘柿だ!おなかすいちゃったから、帰り道に食べちゃおうかな。
…あれ。
なんで下り道になってるんだろう?私、登ってたはずなのに。
暗いなあ。
ここ、どこだろう。
沢がなくなってる。
どこで道それちゃったんだろう。
どうしよう。
道に迷っちゃったかな。
もうすぐ日が落ちる。
どうしよう。
足が痛い。
石にぶつけちゃったみたい。
どうしよう。
お父さん、お母さん、足が疲れてきちゃったよ。
おさんが、もういい加減座り込みたくなったとき、暗くなりかけた木立の向こうに、ぼんやり明かりが見えた。
あ、家だ!
誰んちだろう。こんなところに一軒だけ。
良かった。
とりあえず入れてもらおう。すりむいた足も洗いたいし。
家を見つけて急に気力が出てきたおさんは、その家に向かって山道を駆け下り、庭に続く最後の茂みをかき分けようとしたところで急に止まった。
こんなところに一軒だけ家があるということの奇妙さに気付いたのだ。
よくよく見れば、その家は戸板からしてゆがんでいる。
屋根は、茅だろうか。ふいてはあるが、それは見るからに薄い。
壁には隙間。
こんなみすぼらしい家を、おさんは見たことがない。
人が住む家は、もっとしっかりしていて、あったかそうで、縁側があって、井戸があって、…。
おさんの胸は、どきどき大きな音を打っている。
離れなければ。ここから離れなければ。
このどきどきの音が、家の中の何者かに聞こえないうちに…。
そのとき。
ガタガタとゆがんだ戸板が揺れ、中から真っ黒な影が現れた。
ーつづくー
(猫子の飼い主)