納戸婆~其の一 | 内藤メアリの「今日も、だまらっしゃい!」

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女子プロレスアイスリボン所属、内藤メアリの公式ブログ

納戸婆


人家の納戸の中に棲んでいるという老婆の妖怪。

西日本で伝承されている。納戸を掃除すると床下に隠れるとも。

元は納戸神として祀られ、家や家族の守り神であったともいう。



真っ暗だ。


右を見て、左を見て、上を見て、それからそっと自分の足に触ってみる。
あんまり暗いから、自分の体がなくなってしまったかもしれないと不安になったんだ。
足はひんやりしていた。

右足のすねの皮膚がすれて、ざらざらしている。
さっき父ちゃんが思いっきり、投げ飛ばすみたいにしてオイラをここに閉じこめたから、オイラ転んじゃったんだ。

ひどいな、父ちゃん。
あんなに怒らなくたっていいのに。
ちょっと遊んでただけじゃないか。

あーあ。腹減ったなあ。父ちゃんひとりで夕飯食べてんのかなあ。
ああ、でもオイラが野草採ってこなかったから、粥だけかなあ。


ー与助、与助。


「わあっ」


ーそんなに驚くんじゃないよ、ばばだよ。
「ああ、ばばか。なんだ、びっくりした」


ーほっほっ。なんだい、またなんか悪さしたのかい。
「悪さなんかしてないよ!…正太郎と遊んでただけだよ。」


ーほぅ、そうかい。でも遊んでおっただけでは、父ちゃんはここに閉じこめんじゃろうよ。
「野草を採ってくるの忘れたんだよ。夕飯にするから裏山で採ってこいって言われたけど…。

 でも遊んでたら日が暮れちゃったからさ…」


ーほっほっ。そんなら今夜の夕飯はさみしくなっちまったねえ。

 死んだ母ちゃんの仏壇にも、粥しかあげられんなあ。

「ふんっ。一日くらい、いいじゃないか」



父ちゃんは怒ると、決まってオイラをこの納戸に閉じこめる。

古い家だから戸がゆがんでいて、子どものオイラにゃ開けられない。
さっきまで戸の隙間から光がすこーし入って来たけど、もう真っ暗だ。
お日さんも、もう全部沈んじゃったみたいだ。


そんでもって納戸の中が真っ暗になると、ばばが現れる。

いつも。

ばばの姿は見たことがない。だっていつも真っ暗だもの。
でも、なんとなく分かるんだ。

ばばは小さい。

オイラくらいかなあ。


体だけじゃなくて、目も口も、指も小さいと思う。
顔はまん丸だと思う。

それでいつも、目をほそーくして笑っている気がする。


この納戸のどこにいるのかはよく分からない。


でもいつも耳のすぐ近くで声がするから、オイラの横に座ってるのかな。


オイラが閉じこめられてから横に来るのかな。

それとも、オイラがばばの横に放り込まれるのかな…。


ばば、どんな着物着てるんだろう。

きっとオイラと一緒でぼろぼろだ。


見たことはないけど。
そんな気がする。



…つづく


(猫子の飼い主)