少し眠ろう。
きのうの感動を抱きしめながら…。

コチラからのつづきハート




* * *




きのう、午前中だけで
ティッシュ一箱分くらいの涙を流したわたしは、
オットが帰って来ても
明らかにぐったりした雰囲気だった。




「どうしたの?あとで話、聞くからね」
そう言ってくれる彼は
仕事で疲れているはずなのに、
ものすごく優しくて
穏やかな雰囲気を放っているように見えた。




こんな風に膳立てされても
食後のわたしは何ひとつ話せずに、
あまりに言いたいことが多くて
何から話せばいいのかわからない…
そんな感じで、わたしの口からはなんの言葉も出てこなかった。




そんなわたしを見て
彼がシャワーを浴びに行ったのは、
わたしに少しだけ時間をくれようとする、彼なりの優しさの形だったのかもしれない。




そうやってひとり残されたわたしは
思ったんだ。




彼も親も友だちも…
みんなみんな、こんなにも優しくしてくれるのに
どうしてわたしは頑なに殻に閉じこもろうとするのだろうって。




周りにいるみんなの優しさと、
それに対して心を閉ざしてしまう自分自身の情けなさ。
それらが一気に混乱し、
自分でもどうすればいいのかわからなくなっていた。




お風呂から出てきた彼は、
ぐったりとした体で泣き続けるわたしにもう一度言ってくれた。
「話してごらん。聞いてあげるから」
「守ってあげたいと、いつでも思っているよ」




その言葉に
もう一度涙は溢れ出し、
その涙が堅い心の扉を少しだけ溶かしてくれるかのように、
堅すぎる扉は少しだけ緩んでいくような気がした。




「なんかさぁ…」

話そうと意気込まなくても、
話せる気がした。
今なら、話せる気がした。




全部なんて話せないし
話せなくてもいいけれど、
少しだけでも話してみたいと思った。




「今日の朝ね…」

いつもなら、
なんでもない、とか大丈夫という言葉でその場から逃げてしまうわたしは、
朝から泣き崩れてしまったその理由を少しだけ彼に話してみた。
全部なんて言えないけれど、
その瞬間に言いたいことを頭は使わずに話してみた。




・・・




そうしたら、夜、寝る前に思ったんだ。
平日の夜はいつも慌ただしく過ぎて行くけれど、
今日はなんて心が充実した夜だったんだろう、って。




どんなにたくさんの言葉を交わしても、
それが今日あった出来事やたわいもない話だけだと、どこか虚しいことがある。
でも、たとえ少ない言葉でも、
それが本当に心の中から溢れてくる本当の声であったなら、
こんなにも温かい気持ちになるんだなって、
このとき、はじめて思ったんだ。




いつか、母が言っていた。
コミュニケーションの充実が、人生の充実だって。




そうかもしれない。
人生でどんなに大きな何かを成し遂げようと
何を手に入れようと、
そこに本当の心と心を交わすコミュニケーションがなかったら、
本当の充実感なんて、きっと一生得られないのだろう。




ステキな夜だったなと思って眠りについたわたしは、
今朝起きても、自分がとても大きな感動に包まれているような
いつまでもその感覚に身を委ねていたいような...
そんな不思議な空気を自然と感じ取っていた。




朝起きても
きのうの感動は続いている。
こんな風に毎日を過ごせたらどんなにしあわせだろう。




今も泣きたいくらい、
きのうは本当にしあわせだったなぁと思い出す。
このしあわせに、後少しだけ包まれていたいから...
もう少しだけくるまっていたいから...
この感動の中、もう少しだけこの身を委ね、じっくりゆっくり、深い眠りについてみよう...。




nina*