区切り打ち翌日(十四日目)。
さぁ、頑張ったご褒美に
念願だった矢野絢子さんの
ライブだぜー!
と、その前に
母親から「お土産よろしく」
メールが入っていた。
何かあった時の為資金には
大変お世話になったので、
あ、ちなみに
十三日間旅をして
かかった費用は
35000円ほどでした。
これは本当に
地元の方に助けてもらえたからです
これは絶対真似しないでください。
僕は学びました。
初めから助けてもらうつもりで
行動することがどれだけ失礼で、
どれだけ危険なことか。
自分でやっといて何ですが、
助けてもらえるのが
当たり前ではありません。
途中で聞いた話ですが、
お遍路をやっているからと
横柄な態度、失礼な態度、
自分本意な理屈で
相手に要求する方もいるみたいです。
自分は一人では
何も出来ない事を
気付かされる旅です。
足るを知る。
だからこそ
周りの人への
感謝の気持ちも生まれる。
だからこそ、
間違った解釈はしないでください。
と、話がズレてしまいましたが、
自宅へのお土産を買う為
急いで高知名物などを購入した。
財布の中は
小銭だけになってしまった。
一応、『ゆうちょカード』を
持っていたので
郵便局のATMに向かった。
そういえば、
家を出る直前に
「あんたの暗証番号は
わかりやすいから、
お母さんらの結婚記念日に
変えといたで」
と母親から言われていたのを
思い出した。
「暗証番号を入力して下さい」
目の前の機械が僕に言う。
えっと、○○△△と。
「もう一度入力して下さい」
ん?
あ、確認の為ね。
○○△△と。
「もう一度入力して下さい」
しつこいなぁ。
あれ、もしかして
まだ番号変わってなかった?
前の番号かな。
○△○△と。
ピピー、ピピー。
カードが出てきた。
「窓口へ確認して下さい」
あれ、違う?
急いで母親に確認すると、
なんと両親の結婚記念日を
間違えていた。
息子失格だ。
でもそんな事より
今は引き落としだ。(最低な男だ)
今度こそ大丈夫だと、
カードを入れるも
入力画面に行かず、
「窓口へ確認して下さい」
とカードが出てきてしまう。
もしかして、
3回間違えたから
この機械では
受け付けなく
なってしまったのか。
横に備え付けてあった
受話器を取り、
助けを求めた、
対応してくれたのは、
大阪にいる事務員さんだった。
「私がいるのが大阪でして、
カードが使用可能になる為には
そちらの窓口で
対応して頂くしか
方法はありませんね。
今日は土曜日なので、
明後日、月曜の朝に
もう一度お越し頂けますか」
事前に、帰りのバスの切符を
購入していたのが
不幸中の幸いだった。
しかしお金が降ろせないとなると、
大好きな矢野絢子さんの
ライブに行けない。
事前に予約していたのに。
僕は何か方法はないかと
郵便局を歩き回った。
すると、
『ゆうパック』の
窓口は開いていた。
事情を説明し、
『ゆうちょ』の人に
なんとか来てもらえないか懇願した。
しかし、対応は冷たいものだった。
「私は『ゆうパック』の者でして、
『ゆうちょ』の者は
終業しましたので、
また明後日の朝に
お越しくださいませ」
いやいや、
それはもう聞いたんだよ!
そしてこっちは、
明日帰るんだよ!
この一晩の為のお金を
降ろしたいって言ってるのに、
明後日来てくださいは
おかしいでしょ!
こっちだって、
普通に考えたら
無理だってことは
わかってんだよ!
だからそこをなんとかって
お願いしてるんでしょ!
それをなんだ!
お役所みたいに
一辺倒な対応しか
出来ないのかよ!
何の為の民営化なんだよ!
こっちは暗証番号もわかってて、
カードもあるんだ。
なんで降ろさせてくれないんだ!
じゃあこうしよう。
もしあんたが滋賀県に
遊びに来ていたとしよう。
お金は無いが
一晩ここで過ごさなきゃいけない。
そんな時に
『明後日来て下さい』って言われて、
はいそうですか。って言えるのか?
もういいよ!
じゃあ、あんたのポケットマネーから
いくらか貸してよ。
そんで明後日になったら
そっちで勝手に
カードからその金額を
降ろしてくれていいからさ。
その後にカードは
郵送してくれたらいいよ。
全部ここで出来るでしょ!
なんで無理なの!?
おい!
バカにしてるのか!
こんなとこ、二度と来るか!」
なんて事を心の中で叫び、
現実は静かに引き下がった。
郷に入れば郷に従えだから。
でもなぁ。
楽しみにしてたのに
ライブに行けないなんて。
こんな時は・・・、そうだ!
困った時のおまわりさんじゃないか!
警察だったら
お金を貸してくれそうだ。
ちょうど目の前に
警察署があるじゃないか。
「すみません、
郵便局のお金が降ろせなくて
困ってるんですよ。
明日の朝、帰るバスの
切符はあるんですけど、
今晩過ごすお金がなくて。
必ずお返ししますので、
貸して頂けませんか?」
さすがにライブのお金を
貸して下さいとは言えなかった。
「そうですかぁ。
いやー、以前なら
お貸ししてたんですけど、
今は規則で出来なくなったんです」
マジか!規則、規則って!
なんの為の規則だよ!
現代は、ますます庶民に
厳しい時代になった。
昔の助け助けられの時代とは
全然違う。
つめてーなー。さみーなー。
「でも、この寒空の野宿は
大変ですよね」
おっと。
話せばわかってもらえる感じ?
「役所にあたってみて、
一晩過ごせる施設がないか
探してみます」
あ、いや、
そこまでしてもらわなくても、
僕は泊まる場所より
ライブに行きたくて、
そのお金の事を
考えてたので・・・。
だからといって
ライブのお金を
貸してなんて言えないし。
「あ、申し訳ないので、
もうちょっと自分でも
探してみます」
そして警察署を後にした。
ここまできたら
諦めるしかない。
しょうがない、
キャンセルの電話を入れよう。
ボタンを押すと
コールが鳴り、
すぐにライブハウスの
マスターが出られた。
事情を説明すると
「せっかく遠くから
来てもらったのに残念です」
と優しい言葉を
掛けてくださった。
その言葉を聞けただけで
嬉しかったのだが、
さらに思いがけない一言が。
「あの、お金は後で
送ってもらえればいいので、
お越し頂いて結構ですよ」
まさかの提案に
僕は驚いていた筈なのに、
すぐさま
「良いんですかぁ?行きます!
後で必ず送らせてもらいます」
と電話を切っていた。
ほんとね、お役所さんとか
郵便局とかにね、
このマスターの講義があれば
聞かせてあげたいよ。
これだよ、サービスは!
一般人満足度No1を目指すべきだよ。
そんな自分に都合良く
物事を考えながら、
僕は矢野さんのライブに
参加させてもらった。