山門に見慣れた姿があった。
先ほど別れた旅バカが、
なぜか僕の前に立っている。
追い抜かれた覚えはない。
「おー、来たか。
歩いてる姿を
車から見てたから、
そろそろやと思ってた。
車でお遍路を
廻ってる人がいるから、
駐車場で声をかけたら
ついでに乗せてくれる人がいるんや。
わいなんか、顔を見ただけで
いけるか、いけんかわかるわ」
旅を続けると
人を見る目も
養えるみたいだ。
お遍路は、
ご夫婦が車に乗って
廻られている事が多い。
お参りを終えた方は
すぐに次を目指しているので
急いでいるらしい。
お参り前の、
駐車場からお寺へ向かって
歩いている方が狙い目。
その教えを頂き、
初交渉に出る。
「すみません。
もし次のお寺にも
向かわれるようでしたら、
乗せて頂きたいのですが」
「嫌」
一瞬で終わった。
「あのおばはんは、
顔からして厳しい」
離れた場所から見ていた
旅バカ兄さんは
結構、辛口コメントを口にする。
「兄ちゃん、
あの車行けそうや!行ってみ」
第二交渉を開始する。
「いいよ。今からお参りするから
ちょっと待ってて」
あっさり成功。
愛知ナンバーのご夫婦だった。
その瞬間、
旅バカ兄さんは
師匠になった。
なるほど。
0か100なんだ。
師匠は、この日、一日
お寺で托鉢を続けるようだ。
師匠にお礼と別れを告げた。
またどこかで
お会いしましょう。