旅人のススメ 〜アドバイスと救急車〜 | 浅見直輝の たびびとなおさん どこへゆく

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そんな欲深い僕は、

(よくわからない人は

前回を読んでね)

早くも足を引きずっていた。

足の裏にマメが

出来ていたからだ。

しかも両足。


後日、他のお遍路さんに

聞いた話だが、

雨の日はなるべく

歩かないようにするか、

濡れないようにするのが

鉄則らしい。

怪我や体調不良を

防ぐためだという。


雨の日にスタートし、

足元を濡らして、

足を痛めてしまう。

『史上最高の劣等お遍路』

ここに誕生だ。

まぁ、自分のペースで

行けば良いので、

ゆっくり進む。


午後3時頃、

十一番札所【藤井寺】に

到着した。


お参りを済ませ、

次のお寺への道を

探していると、

そばにいたおじさんが、

「次は山越えやから、

今日はもう休んで、

明日の朝一で

出発した方がいいよ」

と、教えて下さった。


その方は、

何度も廻られているらしく

きちんとした作法で

住職のように

お経も唱えていらっしゃった。


「いや、我流だよ。

それに僕も、

自分のルールで

やっているから、

そんなにきちんとはしてないよ。

でもお参りする事に

意義があると思ってるからね。

一人一人全然違うから

それぞれにできる形で

やればいいんだよ」


はぁー。

感嘆の息が漏れる。


なかなか年配の方で

このような考えを

されている方は

いないように思う。

今日も素晴らしい人に出逢った。


十一番札所【藤井寺】から

10分ほど歩くと、

『お遍路さん割引き』の

温泉に着いた。

温泉と言っても

銭湯のような建物で、

隣に善根宿がある場所だった。

(善根宿とは、歩きへんろを

やっている方が寝泊まりできる、

小屋のような物。

ほとんどが無料だが、

雨風が凌げる程度の小屋で

寝袋が必要な所が多数)


そこは、

三畳の広さの建物と

二畳の部屋(女性優先)、

横の自転車置場で、

一晩過ごさせてもらえる。


三畳の部屋は

既に先客ありだったので、

女性が来るまで

二畳の部屋を使わせて

もらえる事になった。

さすがに2月に女性は

廻っていないだろうし、

上が吹き抜けの部屋には

泊まらないだろう。


まだ日暮れには

早かったので、

溜まっていた洗濯物を持って、

近くのコインランドリーへ

向かった。


そこは靴の洗濯・

乾燥機もあったので

濡れて重くなった靴も

一緒に洗った。

その間、

店内のパイプ椅子に

体育座りの形で

足を上げて雑誌を読む。

俯瞰すると

結構滑稽な姿かもしれないが、

この時自分の中では

デスノートのLの気分だった。


乾燥機が止まり、

綺麗になった靴を手に取ると、

白さと軽さに

心まで洗われたようで

気持ち良くなった。


次に食料調達の為、

近くのスーパーへ行った。

スーパーはコンビニよりも

安いので、発見したら

入らずにはいられない。


買い物を済ませ、

部屋に戻ろうとすると、

温泉の前に救急車が停まっていた。

長湯して、のぼせたのだろうか?

あまり気にも留めずに

部屋へ戻る。


疲れを癒し、

ゆっくりしていると、

急に扉を叩く音がした。

あー、女性が来たから

出てくれってことかぁ。


残念の気持ちで

扉を開けると、

やはりそこには温泉にいた

善根宿の受付けの方が

立っていた。

彼は申し訳なさそうに

こう言った。


「すみません。

隣の自転車置場に

おじいさんが

入られまして・・・。

でも体調が悪そうだったので、

救急車を呼んだんですけど、

『ワシは乗らへん』って言って、

病院に行ってくれないんですよ。

うちの温泉も夜には閉めますし、

私も帰りますので、

何かあったらお願いします」


え・・・、

いや、

僕に懇願されても・・・。


「あの、何かってゆうのは、

呻き声が聞こえたら

救急車を呼んだりですか?」

具体的な作業を確認する。


「そうですねぇ」

と言ったきり、

言葉が続かなかった。


「今は静かなんですけど

大丈夫ですかねぇ?」

更に確認する。


「たぶん大丈夫でしょう」

たぶん!?


そうして、

彼は立ち去り、

二人の微妙な会話は

微妙なまま終わった。


壁一枚隔てて、

体調の悪いおじいさん。

何かあったら・・・。


いやいや

考えてもしょうがない。


ごはんを食べて、

お風呂に入って、

温かくして寝よう!


そうして、

閉店ギリギリまで

温泉で身体を温め、

そのまま寝袋に入り

就寝した。


何もありませんようにと

祈りながら。