暑いのと寒いのはどちらが苦手ですか?
なおさんは暑いのが苦手です。
寒いのは動いたり、着込んだりすればなんとかなる。
暑いのはどうしようもない。
脱いでも暑い。汗がだらだら気持ち悪い。
なので、夏は基本的に室内にいる。
幼少に海へ行った記憶もない。
そんななおさんの初海は24歳の夏。
従兄弟が海で集まるようになったからだ。
今まで若者たちが
きゃっきゃ言っている意味がわからなかったのだが、
それを知るチャンスだと思い、
足を運んだ。
現地に着き、車から降りたとたん後悔の暑さ。
なのに周りのみんなは喜んでいる。
意気揚々と浜辺でアウトドアセットを組み立てている。
僕は温泉につかるように海で体の熱を覚ましていた。
従兄弟は完全に海のベテランといった感じで、
浮き輪や、ゴーグル、ゴムボートと完全装備。
確かにこれらの道具があると楽しい。
そしてなにより、外で食べるご飯が美味しい。
従兄弟が完璧アウトドアマスターだったおかげで、
海の家で購入しなくても、
かき氷・海鮮焼き・焼き肉・焼きそば・ソーセージ・
ラーメン・カレーなどなど食べ放題だった。
まあ、外で食べるご飯というか、
従兄弟が準備していたものが凄すぎただけやけど。
そうして私腹が満たされ、
至福の一時を味わっている時に事件は起きた!
なんと子どもたちの姿が見当たらない。
小学一年の男子と小学四年の女の子、
それに高校三年の女の子だ。
もしかしたら、子どもたちだけで沖にある
岩島へ向かったのではないか?
その予感は的中した。
うっすらと沖の方にゴムボートで
岩島へ向かう三人の姿があった。
ゴムボートでは無事に帰ってこられるか
とても心配している大人たち。
確かに海が危険だということは
テレビやらで聞いたことがある。
何か起こる前にボートに乗せて
連れ返さなければいけない。
従兄弟のおじさんがたは
ビールを飲んでべろんべろん。
ご夫人方では力がない。
というわけで、お酒を飲んでいなかった
なおさんが貸しボートを借りて、
子どもたちを迎えに行くことになった。
スムーズに事は済まなかった。
ここで、どこの一族でも必ず一人はいるであろう
親戚が集まった時に調子にのるおっちゃん。
そのおっちゃんが、
「わしもいく!」
と言いだした。
すでに朝からビールを何本も空け、
顔は真っ赤っか、足もともふらふらであった。
周りがいくら「やめといた方が・・・」
と言っても、こうなったら誰にも止められない。
しかたなく、そのおっちゃんを乗せてボートを漕いだ。
ボートの上は、太陽からの照り付けと、
水面からの照り返しで灼熱だった。
流れる汗が滝のようだ。
数分前のバカンス気分が嘘のようだった。
腕が疲れてきたが、
遊びで漕いでいるのではなく、
子どもたちを危険が迫る前に
連れ戻さないといけないので、
腕は休められない。
しかも、疲労の最大の原因は
太った酔っ払いのおっちゃんを乗せていることなのだが、
そのおっちゃんは優雅にタバコを吸っている。
途中、「疲れたし、そろそろ代わって」
と、言うと、
「わしはええわ。なおき漕いどき」
まるでこちらがワクワク気分で漕いでいて、
その楽しみを奪わないように
しているかのような断り方。
僕の疲れはどんどん増していった。
暑さと疲れでおっちゃんへの扱いも雑になってくる。
海の中へタバコをポイ捨てした時は、
「こら、ポイ捨てしたらあかん!」
と、子どもを叱るかのような言葉がでてしまった。
おっちゃんはやはり子どものように、
「まあまあ、ここだけや」と苦笑い。
「いや、ここの方があかんねん!」
とのツッコミはボケの僕には珍しいほど切れ味がよかった。
なんやかんやあり、
ようやく岩島に着くと、
無邪気に遊んでいる子ども達の姿。
まだ、優しい大人二人に見つかったから
良かったものの、ほかの大人だったら
大目玉だっただろう。
浜辺に戻ったら雷を落とされるんだろうなと思うと
やはり厳しい言葉は言えなかった。
一安心で帰ろうとすると、いきなり17歳の小娘が
「なおき兄ちゃん、競争して帰ろう。よーいドン」
とゴムボートをこぎ出した。
?な状態でいると、おっちゃんが、
「早よ行かんとまけるぞ」
とはっぱをかける。
いやいや、今来たばっかで
こっちはクタクタですよ。
しかもなんで帰りも漕がなあかんねん。
結果は案の定、こちらの負け。
浜辺に着くと、子どもたちが怒られているどころか
「なおきは女子高生に負けてるんか」
とボートレースの結果を楽しむ面々。
おっちゃんは最後まで、
ボートに揺られて楽しんでいただけだった。
降りて第一声が、
「あかんわ~!こいつは体力ないわ~」
とさらっと、言われた時には
「あんたに言われたくないわ!」
と、これまたするどいツッコミがでたのは
言うまでもない。
このおっちゃんに関わると、
とんでも無い目に合うなと思った数時間後に
まさかあんなことになるなんて・・・。
~続く~