「私ども日本人が決して忘れてはならないこと」


天皇陛下のフィリピンでの言葉であり、旅立つ前の羽田空港での言葉だ。


「私ども日本人が決して忘れてはならないこと」


その、単純な言葉に限りない意味が含まれているのだろう。




天皇皇后両陛下のフィリッピン訪問には特別の感慨を抱く人は多いだろう。

両陛下の慰霊の旅は戦争の惨禍を忘れてなならないと教える。

あの戦争の残したものはあまりにも多く、

70年たった今でも、多くのことが残っていることを、

私たち日本人に、今一度振り返って見よと教えるかのようだ。



 フィリッピンは太平洋戦争で、最も多くの犠牲者を出した国だと言っても過言ではないだろう。日本人の戦死者が五十万人以上で、フィリッピンの人々はその倍以上の犠牲者を出した。天皇陛下が出発前に、そして、フィリッピンでも言われた無辜の市民が、無差別に殺された戦場がフィリッピンだった。

 終戦当時のフィリッピンの人々の日本への感情は、それは赦し難く、憎しみが重なりあった特別の反日感情だったに違いない。その反日感情を消し、最も親日的な国に変えたのは、キリスト教の赦しの教えであると言ってもいいと思うが、でも、その赦しの教えも、目の前で肉親が殺され、多くの同胞を殺される殺戮の現場を見た人間の心から憎しみの感情を消すことは不可能に近いだろう。


 また、自分も殺されるかもしれない思いが、多くの無辜の市民と言われる人々の心に残っていた。限りない憎しみがあったはずの人々が、反日の感情を捨て親日国に変わるには、一人の大統領の特別の思い大きな力になった。


 自らも最愛の家族を、妻と三人の子供たちを殺されたキリノ大統領は、多くの日本人戦争犯罪者、いわゆるBC級戦犯を恩赦で釈放(解放)した。


 1953年7月のことで、60年前のことである。


 

 妻と三人の子供が日本兵によって殺された大統領が、日本人戦争犯罪者に与えた恩赦は、特別の意味を持つだろう。妻と三人の子供たちを殺された大統領によって、赦しの教えが実践された時、キリスト教徒である多くのフィリッピンの人々に赦しの尊さが示された。


 議会の承認を得るために議会にかければ、反対されるに決まっているから、議会承認の必要ない特赦で多くの日本人戦犯を解放したのだ。多くの政治的な駆け引きや、日本からの除名嘆願などもあったというが、それでも、多くの戦犯への恩赦は特別の意味がある。



 「日本人が決して忘れてはならないこと」


 天皇陛下の言葉の中の忘れてはならないことに、戦犯を恩赦で釈放(解放)した、

キリノ大統領のこともあるような気もする。



さて、さて、突然、


 「あゝモンテンルパの夜は更けて」の歌があったことを思い出す。



 モンテンルパは刑務所があった土地だ。

 


日本人戦犯は、

フィリピンBC級戦犯裁判で死刑や有期刑を宣告され、

モンテンルパ刑務所に服役していた。

100人超の戦犯に1953年7月に恩赦令を出したのは、

繰り返して言うがキリノ大統領だ。



さて、キリノ大統領は、
共和国独立後副大統領となる。
ロハス大統領が急死し大統領に就任する。
そして、49年の大統領選で当選した。

51年9月、キリノ政権は対日講和条約に調印するも、議会の反対で批准ならず。
そんな政治情勢の中での恩赦には特別の意味があったと何度でも強調したい



天皇皇后両陛下のフィリピン訪問には多く歴史がついて回るような気がする。
フィリッピンの国家的寛容はキリスト教国のそれであり、親日へと舵を切った人々はキリスト教徒の赦しの教えの実践者であると、フィリッピンの人々を称えたい思いだ。その赦しの教えが、天皇皇后両陛下をフィリッピンへと導いたと思いたい。赦しの心から生まれた日本とフィリッピンの関係は、神が仲介した特別のものとして永遠の平和への礎になってほしいと願う天皇皇后両陛下の思いが、


「日本人が決して忘れてはならない」

と言う言葉になったのだろうと思う。



 天皇制を否定もしないが肯定もしない人間の天皇への思いは、慰霊の旅を重ねる象徴としての人間天皇の心の豊かさを称えるものである。戦争法案と悪評の安全保障関連法裁決時の、あり得ない国会模様、集団的自衛権行使容認の憲法違反的な独裁制への戒めでもあるかのような気もするが、政治に口を出せない天皇陛下の思いとも考える。戦後築き上げた平和を守るために、多くの犠牲者を出した激戦地への慰問の旅を続けていると解釈する。そのたびに終わりはないと思われるが、老いと共に歩む旅は厳しさも増す。



 何はともあれ、日本人への、日本国への、平和の尊さを教える天皇皇后両陛下の慰霊の旅を称えたい。



 そして、キリスト教国フィリッピンの赦しの教えから生まれた日本への限りない友好を忘れまいと誓う、平和ボケの日本人である。