突然ですが……

“四鏡”と並び称される歴史物語のひとつ 『 水 鏡 』

を読む古典学習を開始します。


「突然」とはいいましたが、実は、ずっと読もうと思って本を温めていました。机の横のスツールで。積んだまま、猫たちに踏まれながら。


なぜ『水鏡』かといいますと、“四鏡”のうちで最も古い時代をあつかった作品だからです。時代順で次にくるのが有名な『大鏡』で、ほかの3作品は最初に成立したこの『大鏡』の形式を踏襲しています。


順に並べると『水鏡』→『大鏡』→『今鏡』→『増鏡』となります(成立順ではなく、描かれた時代の順です)。この順番で読んでみよう! という壮大な企画です。ほかに『栄花物語』も挿入できたらと思っています。


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さて、では、まずは『水鏡』の紹介から。


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鎌倉時代初期の成立で作者は中山忠親とされるが、源雅頼説もあり断定はされていない。神武天皇から仁明天皇まで(『大鏡』であつかう時代の直前)1522年間の歴史をかたるが、史実としての信憑性は低く、『扶桑略記』に依拠している部分がきわめて多い。


仏教的な記述が多いことも特徴であるが、そのなかに「古今世情同一論」ともいえる独自の思想・主張がみられる。「古へをほめ、今を謗(そし)るべきに非ず 」という考えである。

『水鏡』成立当時は戦乱もへて政情不安定であったと思われるが、“人の心情はそう変化するものではないので、昔は善い世の中であり今から先はどんどん悪くなるばかりだ、と決めつけてはならない”という主旨である。そのことを理解するために、歴史が語られるのである。


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さて、今日は序文を読み、ざっくりまとめてみました。


序文、長いです! この物語がかたられるシチュエーションを説明しています。これがまた複雑です。


まずは当年とって73歳(厄年)の老婆が登場します。彼女が長谷参籠のさいに年若の修行者に出会います。その修行者が先年に出会った葛城山の神仙からきいた長い歴史や秘話をかたる、という構成です。ちなみに、葛城山のスーパー仙人の年齢は不詳です。


神代のむかしからあらゆる界隈のできごとに精通している仙人のかたりは、仏教思想「劫」からさきにあげた「古今世情同一論」におよびます。かなり内容的に煩雑です。作者としては、こうした思想を説いたうえで歴史を表現したいのだと思われます。


序文の最後は『大鏡』にふれています。


 万寿の頃ほひ、世継と申しし賢しき翁侍りき。文徳天皇より後つ方のことは、暗からず申し置きたる由うけたまはる。(…)かの嘉祥三年より前のことを、おろおろ申すべし。


「世継」とは、『大鏡』のかたり手の老翁のことで、文徳天皇以降のことはかれが明らかに話をしたと言っています。それ以前(嘉祥3年=850年、文武即位以前)のことを話そうと言っているのです。神代12代は申し憚るため、神武天皇よりはじめよう、とつづけます。



[参考文献]河北騰『水鏡全評釈』笠間書院、2011

       『国史大辞典』(水鏡の項)吉川弘文館