インボイス制度【少額特例】 | n-kimura officeのブログ

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五反田で税理士しています。必要な人に必要な部分だけ。分かりやすい税務解説を心がけています。
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インボイス制度が始まり、半年が過ぎました。

 

当事務所では、自計化を希望されるクライアント様へは、必要に応じてマニュアルを作成することもあります。

 

その過程で、感じた感想です。

 

こんなに複雑だったっけ?

これ、会計の知識のない初心者が日々処理するには、かなりの負担になるのでは?

 

理由は、複数の経過措置や特例が継ぎ接ぎのように存在するためです。

 

その中の一つに、

少額特例(一定規模以下の事業者に対する事務負担の軽減措置)

があります。

文字通り、小規模事業者の事務負担の軽減を目的とした令和11年9月30日までの時限立法です。

 

内容は2つの要素を含んでいます。

①対象の小規模事業者は、1万円未満の領収書等の保存が不要

②対象の小規模事業者は、1万円未満の領収書等については、

 その発行者がインボイス登録事業者か否かに関わらず、

 すべてインボイス登録事業者から受領した領収書等と同じよう

 に、全額仕入税額控除できる。

 

言わずもがなですが、領収書等の保存が不要だからと言って、

支出の実態のない1万円以下の経費を帳簿に記載することは、脱税行為です。そういった行為を容認するものではありません。

 

また、消費税法は保存不要と言っていますが、法人税法や所得税法は不要とは言っていません。

調査の際に支出の事実を証明できるのは、領収書等です。

実務では、領収書等を保存しておくことが、自分を守ることになります。

 

例えば、カードの利用明細に、きちんと飲食店名の記載があり、飲食代であることが予測できる場合などで、領収書等をもらい忘れてしまった時、この特例に救われセーフ、といったこともあり得る、そのくらいの意識が良いのではないでしょうか?

 

 

さて、話を最初に戻し、「複雑」について、少し詳しくご説明します。

 

まず、下記のフローチャートから、自分(自社)がどこに当てはまるのか?を確認します。

 

 

少額特例適用なしの場合の業務フロー

 

少額特例適用ありの場合の業務フロー

これは、国税庁が想像したであろう業務フローです。

すでに複雑になっているように見えますが・・・

一番最初に1万円未満のものを振り分けてしまえば、今まで通りの処理で良いのだから、事務負担の軽減になっているでしょう?ということなのでしょう。

 

ですが、実務は違いました。

AI-OCR搭載の会計ソフトは、まず、インボイス登録番号を確認します。「少額特例なし」と同じ業務フローで会計処理を推測するところまで、会計ソフトが一気に処理します。

 

その後、

インボイス登録番号がないものは、「免税事業者等からの課税仕入れに係る経過措置の適用」のため、税区分が「課税仕入(控80)」となっていますから、そのうち、1万円未満のものだけ、

少額特例を受けるため、手作業で、通常の「課税仕入」に変更するというプロセスが発生します(一括チェック修正機能はありますが、それも手作業です)。

これ、本当に事務負担の軽減になっているのでしょうか?

 

 

問題なのは、分岐が多いこと。

通常の10%か軽減税率8%なのかという分岐。

インボイス登録番号があるかないかの分岐。

1万円以上か未満かの分岐。

それぞれ、経過措置、特例など違う規定に沿った処理にするための分岐です。

いくら会計ソフトが自動で処理してくれたり、導いてくれても、それが正しく処理できているのか?そのアラートの言っている意味は何なのか?を、判断、理解する知識がなければ、安心感はそこにはありません。

 

納税額の負担の減少というメリットの可能性があるにしても、一番規模が小さく経理担当を雇用することも難しいであろう小規模事業者が、一番分岐が多く、負担が大きくなっているのです。

 

そんな時は、簡易課税を、という話なのですが、2割特例という負担軽減措置(これもまた別の規定)との比較検討もあるため、簡単にそちらにすることもできず。

 

不安のある方は、税理士と二人三脚で、という方法がおススメです。