幽霊が見えるという知り合いがいる。彼と一緒にいると、たまに「ワーッ!」と叫び声を上げる事があり、どうしたのかと訊ねると、黒い人影が後ろに立っていたのだと怯えて答えるのだ。


 ただ通常と違うのが、そういった反応の頻度が異常に多く、2時間一緒にいると15回はその男の叫び声を聞く。その度に目の前を黒い陰が通っただとか、隣から睨みつけるような視線を感じたと騒ぎ立て、最終的には「大丈夫?」と僕に肩を叩かれた事に驚き「ウワァー!!」と叫び腰を抜かしてしまい「ちょっとびっくりさせないで下さいよ!」と泣きそうな男を、僕はただ冷めた表情で見下ろしている。


 その男曰く、家で頻繁に金縛りにもかかるそうで、頻度としては週に4〜5回と、もはや女子高生のバイトの数と同じぐらいである。その現象は実家に居る頃から続いており、しかも両親と妹、更にはおばあちゃんも含めた家族五人が、全員同じように金縛りにかかるという。家族全員で、マックス週に25回金縛りにかかるのだ。多分ギネス記録だよ。


 霊の存在にも家族全員が敏感らしく、おばあちゃんが庭で軍服を着た男を見たと叫ぶと、妹が押入に人が居たと二階から駆け下りて来て、その二人の話を聞いた両親とその男の耳に、今度は女の不気味な笑い声がこだまするらしい。


 それもう、ただ家族全員の感受性が強いだけだよ。霊が見えてるとかじゃない。


 男の普段の態度やその話から嘘を吐いてる様子はなく、本当に実家ではそんな自体に陥ってるのだろう。でもそれはやっぱり霊が見えているのではなく、誰かの僅かな言動や、目に映る小さな変化に敏感に反応し、現実に影響を与えるほど想像力を働かせてしまうのだろう。


 その証拠に今でも家族みんな仲がよく、誰一人ケガも病気もする事なく健康に過ごしていて、28にもなるその男は、そんな悪魔の住処みたいな実家に、月に一度は母親の手料理を食べに必ず帰ってるらしいのだ。


 実家に帰る時は、きっと数々体験した怪奇現象の事など全て忘れて、みんな笑顔で食卓を囲み、ガタンッという僅かな物音をきっかけに家族全員パニックに陥る。


 誰よりも純粋で、思いやりがあって、絶対

に関わり合いたくない家庭がそこにある。