ノンフィクション作家
佐々涼子さんを知ったのは

『紙つなげ!彼らが本の紙を造っている』



東日本大震災で甚大な被害を受けた
日本製紙石巻工場が

国内外の主要な出版を支えていた
その責務を果たすため、

わずか半年で操業再開するために
自らも被災した社員達が
尽力する姿を克明に追った
ノンフィクション作品です。


石巻工場が年間100万トンもの
莫大な紙を製造していることも
復活が
被災地の人々の心の支えになったことも
出版業界を支えることになることも



薄いのにインクが裏写りしない
文庫本の紙や

子どもが
自分で買った達成感が得られるような
かさばりがあり、
かつ軽い
コミック本など

出版する側の思いと
読者の読み心地よさを
考え尽くされた製紙のこだわりの奥深さも

初めて知ることばかりでした。
感謝とともに胸が熱くなりました。



それより前に書かれた

『エンジェルフライト』では




海外で亡くなった方の
死を穏やかに迎えられるよう
なきがらをその方らしくととのえる
国際霊柩送還士たちの 
身を削るようなストイックな仕事ぶりと
 
死を受けとめる人々の姿を描いています。

佐々さんはかつて日本語学校の教師で
来日した生徒達の身に何かあったとき
どのように扱われるのか
疑問にもったことが
取材のきっかけだったそうです。




『ボーダー』では




移民と難民に対する
日本の対応の人権意識の乏しさと

彼らが人として
受け入れられ生活できるよう
奮闘する弁護士らの姿を
身近な者の目線で描き出そうとしています。

制度の足りなさはもとより
従事するものが
非人間的なシステムを
連綿と引き継ぎ維持している事実が
一番衝撃的でした。



『エンド・オブ・ライフ』では


終末期医療に医療従事者として
親身に働いていた友人が
あるとき彼自身余命を宣告され

佐々さんは彼に頼まれ
その終末期に寄り添いながら

佐々さんの家族の介護についても
冷静に振り返りながら

迷う気持ちまで
誠実に誤魔化さずに
書きあらわそうとしています。



佐々涼子さんのノンフィクションは
自分から飛び込んで
あるいは
依頼されて取材していきますが

対象の方々との距離が
とても近いのです。
覗き見しているのでは、
という罪悪感を抱えながら
自分の人生の課題に
誠実にくぐらせながら
書き残そうとされています。

佐々さん自身が
飲み込まれそうな現実に
身を削りながら向き合って
向き合って

どれも重いテーマでありながら
読者が親近感をもって
するすると読んでいけるところまで
精錬して
執筆されています。



どのノンフィクションも
対象の方々のことと
佐々涼子さんのことと
読んでいると
二重に読み手の中に入ってくるのです。
まるで自分ごとのように。


最新刊『夜明けを待つ』は



佐々さんのこれまでの
エッセイと
短めのノンフィクションで構成されています。

『エンジェルフライト』より前の佐々さん

『紙つなげ!』

『エンド・オブ・ライフ』

『ボーダー』の

隙間を埋めるような著述は
各ノンフィクションを通じて
あたかも佐々涼子という

たいていは
見過ごしてしまうことに

立ち止まり
目を凝らし耳を澄ましてきた
ノンフィクション作家の人生を
自叙伝として読んでいるようです。





佐々さんは今、
病とともにあります。

『夜明けを待つ』の試し読みで
その経緯はある程度までわかります。

これまで取材し想像し著されてきたことが
我が身に起きるとは

はかりしれないことです。


26日のNHK朝のニュースで
特集があり
佐々涼子さんが
ご家族と出演されていました。
1月2日まで
NHKプラスで見逃し配信をしています。


生ききることに力をもらう
佐々涼子さんのノンフィクションは
どれも多くの方に読んでいただきたいです。




















今年もありがとうございました。
皆さまが健やかに新しい年を迎えられますように。