師走のせわしなさとともに

じわじわと
年末と年越し準備に
そわそわしています。








小川哲さんの本に誘われて
気まぐれに
手にしたロングセラーの短編集。

期待した以上に
味わい深くて
しばらく読み直していました。




『シカゴ育ち』
スチュアート・ダイベック 著
柴田元幸 訳
1992年刊




シカゴに生まれ育った作者が
10代に過ごした
1950年代のシカゴの下町と
そこに暮らす人々の景色を描いた
7つの短編と
7つの掌編。


ロシアやポーランドやメキシコや
ドイツや日本やジプシーやウクライナ

書ききれないほど
多くの国から来た人々が登場します。



街に流れる音楽も多種多様。
ショパンやブルースや
ロックンロールやラテン

漂うのは
ハンバーガーの焼ける匂い
ピザの匂い、
タコス屋のコーンミールや揚げ物の匂い

冷えたビールに
ラムにコークにライムをひと搾り
熱いコーヒー



シカゴは有名な都市だけど
よくは知らないから

一つ一つ
登場人物達の生活圏を
本に載っている
手書き地図を確かめながら読みました。



味わいの異なる14篇を読むと
しだいしだいに
馴染の街のような気がしてきます。


原題は
短編集のタイトルとして

The Coast of Chicago

邦訳は『シカゴ育ち』

さすが訳者柴田元幸さんは
気の利いた
上手いタイトルをつけたものだと
うなってしまいました。





詩情ある
ほんの数行を読むだけで
今はもうない
街の一角が立ち現れ
そこに佇む自分を想像したくなります。







夢遊病者が
夜中のカフェにたどりつき
コーヒーのマグを抱えてすごす。





遅かれ早かれ、
すべての不眠症患者がいずれは行きつく、
終夜営業の食堂がある。


食堂から発する、
燐光のような青光りに照らされた
人けのない街は、
月に舗道を敷いたらこんなふうだろうか
というかんじに見える。
「不眠症」『夜鷹』



ホッパーの作品に触発された
『夜鷹』は読む絵画鑑賞なようで
2倍楽しめたし、

小川哲さんが絶賛し

オー・ヘンリー賞を受賞している
『熱い氷』は
死んだ娘を凍らせた父親の話から始まる
切なくて哀しくて
疾走感がある愛おしい作品でした。



須賀敦子さんが
りっぱなディナーコースの間にでてくる
レモン・シャーベットに喩えた
掌篇はうんと短い。



 
小気味よいリズムで
次の短編にページを繰りたくなりました。





登場する音楽、本、料理、絵画
どれも多種多様で
興味そそられます。

長い夜におすすめの一冊です。





シカゴ美術館のサイトからお借りしました


シカゴの街の写真はネットからお借りしました



ところで。


薄い本だけど
一行一行から想像する
世界の広さが心地よくて




文庫みたいな価格に
得した気分、よし、手に入れようと
うきうきしたら
じつは2003年の出版当時の値段。

今は1.5倍の1320円。
これでも今どきの文庫本価格、
べらぼうに高いわけではない。

とはいえ値上がり幅に
しばし躊躇ってしまいました。

本を買わなくては
本屋さんはなくなっていく一方だし

かといって
ふらりと本を買うハードルが
以前よりも高くなっていること実感し
世知辛く感じていた
そんなときに



手元におきたいと願いつつ
文庫の小ささにためらっていた本と

古書店で
新刊のような美本と
100円で遭遇。



ささやかな夢が叶うときがあるのねと

口元がゆるんでしまいました。




















受験生とご家族の方々、応援しています。

そして

皆さまが寒い冬を
健やかにお過ごしでありますように。