日が短くなりましたね。











愛らしい装丁に惹かれ手にしたものの



自分の教養のなさに打ちのめされながら
何度も読み直し確かめつつ
まだ咀嚼中の本。

書評記事に
刺激をいただきながら
ようやく読み終えました。

アリ・スミス四部作。
『秋』『冬』『春』『夏』



偉大なポストEU離脱小説、
偉大な新型コロナ小説と

現代イギリスの今を描いた作品として
高く評価されています。



シェイクスピア
ディケンズ
チャップリン
ポーリン・ボティ
バーバラ・ヘップワース
ライナー・マリア・リルケ
キャサリン・マンスフィールド
アインシュタイン
ロレンツァ・マッツェッティ
・・・

登場人物たちの人生に
強く影響を与える
錚々たる著名人たち。

自らに正直であるゆえに
疎まれ
波乱をよんだエピソードも
一人の生き様として語られます。






未来から過去そして現在と
時間も行きつ戻りつ
それぞれの今、今、今を切り取り

あるいは違う者の目から
同じ場面が語り直されます。
誰もが主役で誰もが脇役

縦横無尽に
コラージュのように。


考えてみると、
人の思考もコラージュのよう。
様々な事どもに
気を散らし連想し思い出しながら
生きているわけだから

実験的な文体というより
人の心のうつりかわりに誠実なだけなのかもしれません。







感覚を鈍麻させ機械のように働く生き方
人をモノとみなす政治に対して

作者アリ・スミスが
作品冒頭からたたみかけ
舌鋒鋭く切り込む
リズミカルな文章は
パンチが効いています。

安穏と読む私にもグサグサ刺さります。

皮肉に満ちたやりとりも
じわっとした面白さがあります。










各巻ともに独立した作品として
高く評価されているけれど

最終巻『夏』では

数々の断片的なエピソードが繋がり、
愛ゆえに語らず
悲しみゆえに語らなかった
秘められた真相が浮かび上がります。



気づくのは読者だけ
本人は知らぬままという場面は切なかったです。

現実でも
大切なことを知らぬまま、
気づかぬままに
過ぎていくことがままあることに
気づかされ寂しくなりました。













『秋』





「それは最悪の時だった」



と始まり、




「死体の並ぶ浜の先で、
彼らは休日を楽しんでいる」




傍観者でいる者を辛辣に刺してきます。


イギリスのブレグジット
EU離脱を問うことになった時期に
書き始められました。

眠りつづける高齢の男性と
彼を幼い時から
心の友として慕ってきた女性の
60歳差の友情が軸になっています。





『冬』




神は死んだ。まずはこれ。」

絶望から始まる。
国民投票で離脱が決まった後の
怒りと混乱の時期に書かれました。



心の距離が遠のいた家族を
偶然に同行する
難民女性が橋を渡します。




『春』

 

さて、私たちは事実なんて欲しくない。 
私たちが欲しいのは混乱。」


力有るものは良い方へと
解決する意思はあるのか。

人間的な扱いをされず
拒絶され隔離された移民達の声。


自らを倦みながらも
機械のように生きる人を
人間化しようとする
移民少女たちの旅路について。







『夏』





闇がどれだけ広大でも
私たちはそこに光を当てなければならない
スタンリー・キューブリック

 


コロナのパンデミック
ロックダウン中に書き進められました。


夏の兄からの手紙と
秋の妹からの手紙。
容易に会えない互いへの
思いの深さに胸が圧されるようでした。

人との繋がりを断たれる状況が
様々な災厄のもと繰り返されます。

それでも
相手を思う気持ちを
伝えること。
「審美的な習慣」として。




『夏』は
『秋』『冬』『春』の物語を経て、

諦めや投げやりや
分断や排除ではなくて

変わること、変えられること、
変わることを学ぶことの先の光や
尽きぬ希望がもつ力強さを
語っているように思います。




訳者、木原善彦さんによる訳注や、
あとがきでの解説が親切です。
『夏』を読むときに
四冊全てを手元におければ
各冊の該当ページを繰って
時系列を辿り直せて
味わいが深まるように思います。





水沢そらさんによる表紙絵は
物語を象徴するアイテムが描かれていて、
見比べながら読むのも楽しい。
・・・このピンクが↑何だったのか?は
わからぬまま・・・。











四作品では 

本人は忘れてしまっているけれど、

とただし書きされる

ささやかだけど
かけがえのないエピソードが
いくつか語られていて

それらに通底するメッセージが
心に残っています。




親やその親が生きぬいたことも
子への思いも
語られなくとも

表立っては伝わらなくとも

過ぎ去っていった些細な出来事が
記憶に残っていなくても

陽の光、風、木々、
生きとし生けるものの営みが
見えなくとも
もたらしているなにかが

人を、つながりを
かたちづくっていること。




目に見えないからといって
何も存在しないわけじゃない。


些細なものが
ありえないほどの影響をもつ。

それはまるで魔法の呪文のよう。







どんなことにも
大切な意味があるのだと
語りかけられているようでした。











歴史は権力者だけの大文字で語られるものではないと、アリ・スミスは今のイギリスを描きながら、語れず語られず忘れられていることも含めた歴史を表わそうとしているようにも思えます。






日本を舞台にこの四作品のような
歴史と文化を縦断する骨太な作品を描くなら
登場する古今の時代を切り拓いた作家
政治に物申したアーティストは誰だろうと
考えてみました。
取り上げる社会問題はどれだろうと。


『夏』の背表紙に西加奈子さんが書評を寄せています。作品を読んだ作家は自分ならどう今を編み直すかと更に創作への欲望が増すのかもしれません。







妄想で・・・

日本なら
四作品通じて登場する

静かな情熱を秘め
謎めいて、
出会う人に不思議な希望を与える
作詞家ダニエルは高倉健。



最終巻『夏』で

人情のある制度設計を求める
社会運動を
綺麗事だと切り捨て
読者に現実を突きつける

天邪鬼で露悪的な
13歳の少年を市川染五郎



他のキャスティングも考えてますが暴走しそうなので。



セリフが多く
戯曲のように思える場面も多いので、
語る姿を思い浮かべつつ
読むのも面白かったです。






『秋』から始まる物語
読み始めるにはいい季節です。




















画像はほぼ全てお借りしました。
コラージュ作品 ポーリン・ボティ













おまけ メール

『秋』『冬』『春』『夏』の紹介もある
ブックレットが書店にありました。




PDFのリンクを置いておきます。







おまけナイフとフォーク




カフェで
パンケーキを食べていて
気づいたんです。

息子は
スフレパンケーキを
食べたことがないって。








・・見た目からして極甘だから
食欲が肉肉しい今は
お店に行っても
しょっぱいメニュー選びそうだなぁ。




で、
栗原心平さんのレシピを参考に、
あんまり甘くないようアレンジしたので
備忘録。





ホットケーキ材料(二人分)

卵2個→小3個

ベーキングパウダーは
すり切りよりも気持ち多め

メレンゲは
レモンを小さじ1足して滑らかに

グラニュー糖は
かなり減らしました。

卵黄用 40g→10g
卵白用 大さじ1→5g


ホットケーキ作り方

140度で生地を丸くたらす(一度目)
蓋をする。
表面が乾いて
生地の残りを盛り重ね(二度目)
150度に上げ、蓋。
(我が家はガスコンロ、フライパンで)




多分、この3枚とトッピングで300kcal弱。
この甘さがベストとのこと。


手軽なシフォンケーキみたい。
おすすめです!









 

















皆さまが健やかにお過ごしでありますように。