日差しは暑いけれど、

風に枯れ草の匂いがまじり始めました。

あついお茶がしみじみとおいしい。 



いつの間にか、秋ですね。









澄んだ月をみていて、思い出した一冊






『マザーランドの月』
サリー・ガードナー著 三辺律子 訳




ボタンをかけ違えれば
現実になったかもしれない
1956年を舞台にした
歴史改変SFです。


主人公スタンディッシュは
圧政のもとの学校に通い
強権的な教師に対し
難読症であることを逆手に取って
生き延びている。


おれはからっぽに見える。だが、本当はそうしゃない。ヘクターとおれはずっと、この表情の練習をしてきたのだ。



スタンディッシュ
親友ヘクター
その家族たちは
したたかで愛と信念がある。
問題から逃げださない
勇気もある。

少年二人の愛情と行動が
唯一無二で強く純粋なだけに、
最後の一行まで目を離せませんでした。





2013年カーネギー賞、コスタ賞、マイケルLプリンツ賞・・と各国で数々の文学賞を受賞しています。

















『人類冬眠計画 生死のはざまに踏み込む』
砂川玄志郎




岩波科学ライブラリーは
目を引くタイトルをつけるのが上手いですね。



SFでは定番の人工冬眠、
それを実現させようという研究者が
日本にいることに驚きました。




砂川さんは小児科医。 
日本唯一の小児を専門に診る国立成育医療研究センターに勤め重症患者や救急対応をしてこられました。今も研究に軸足をおきながら小児医療に関わっています。


いくら自分が臨床技術が長け、医療技術を学んでも、今はまだ救えない病がある。
今は助からない子どもたちを、ひとりでも救えるようになりたい。


ICUの長い勤務明けに、ふとみた論文(暖地に生息するキツネザルの冬眠)にそのヒントをみつけます。



「冬眠を酸素が来ても来なくても大丈夫なように身体の組織を変える現象」ととらえ、
「患者さんの死が近いときに冬眠を誘導できれば、本格的な治療が始まるまでの時間をかなり稼げるのではないか」と思いつきます。



SF的には、人工冬眠は宇宙旅行なんかで超長期間行うイメージですが、
もっと短時間でも冬眠状態が実現するようになったら、


搬送が困難な重症な患者を
冬眠させることで
低酸素などのリスクにさらさずに
搬送、治療できる。


移植用臓器やiPS細胞などを
長持ちさせ処置しやすくなる。


など、今すぐにでも欲しい医療が実現することになります。



もちろん、SFでよくある、治療法が見つかるまで冬眠して待つことも可能になります。

人工冬眠が実現すれば、自分の年齢が変わらないまま周囲の時間が経つわけで、現象としてはタイムマシンに乗ることと変わらないそうです。




氷河期を冬眠して乗り越えた哺乳類が生き残ったと考えるなら、人間にも遺伝する冬眠脳を復活させられるのではないか。
最終的には人間に低代謝耐性(タイムマシン)を実装させたいそうです。


夢かうつつか、
狸に化かされているようだけれど、
着々と研究を積み重ねているのです。
エキサイティングです。



第一章は研究の動機
第二章〜四章は研究内容の話(これも面白い)
第五章は人工冬眠を実現するうえでの社会的な問題について概観しています。


砂川さんたちは、
冬眠しないマウスを任意で冬眠させるQ神経を画期的な発見をされました。
これにより今後、
研究精度と量、速度があがることが期待されています。
冬眠の秘密を解き明かし、
断片的でも人体に応用ができれば、
新しい治療法が編み出される日もそう遠くないかもしれません。



『マザーランドの月』では
科学を悪用する為政者に
抵抗する科学者が登場します。

砂川さんも、研究動機は純粋でも、
人工冬眠が発明されることにより
激変するであろう時間概念、年齢概念、
生命観(生死の他に「休」がある)、権利の所在について
さらには悪用されるリスクも含め
人類に及ぼす様々な影響を
考慮する必要があり、
またそこには
発明者の責任が伴うことも言及されています。




蛇足ですが
最近のSF話題作
『プロジェクトヘイルメアリー』での
人工冬眠のくだりは
(私の曖昧な記憶では)
この本で説明される研究内容と
仮説として齟齬がないように思います。 

併せて読むと、作品では言及のない科学的考証が加わって、より面白く読めるかもしれません。



いちいちスケールの大きな内容で
読んでいて面白く
また見届けてみたい研究分野の入り口として
興味深い一冊でした。




砂川さんの研究をわかりやすく紹介しています。漫画でも。先行して日本で冬眠研究をされている研究者の著作、他の冬眠研究者の研究紹介のリンクもあります。既に基礎研究が重ねられているのですね。凄い!





著作で紹介されている動画です。
砂川さんは小児科医から冬眠研究という話題性のある経歴や、Q神経の発見もあって、新聞記事やテレビ番組でも登場されている話題の方なのですね。



もし読者のなかに、自分がこれからどのように生きていったらいいか悩んでいる方がおられたら、お伝えしたいことは一つだけである。


自分の心の声に素直に従ってほしい。
 

              砂川玄志郎












『マザーランドの月』の翻訳が好きだったので、翻訳者三辺律子さんの本をいくつか手に取りました。




『ジェンナ 奇跡を生きる少女』
メアリ・E・ピアソン著 三辺律子訳



記憶のない17歳のジェンナが
次第に自分の置かれた境遇に気づいていく
近未来の医療SFです。
『人類冬眠計画』と同時期に読んだために、治療に本人の意思が尊重されることについて、愛情ゆえに犯してしまう親の諸々の罪について考えてしまいました。












『エブリデイ』
デイヴィッド・レヴィサン著 三辺律子訳




日本未公開、
Amazon配信の映画になっています。
(配信終了)



毎日違う人間の体で目覚めるA

体の持ち主に迷惑をかけないよう
ひっそりと隠れ生きてきたけれど

ある青年の体で目覚めた日、
恋人のリアノンと過ごし
互いに恋に落ち
自分として生きる道を模索するようになる。





精神だけの存在(魂?)が日替わりで人の体を宿主にするなんて、



・・・ありえない〜!



と、映画は観なかったのですが、
物語は読みやすくて
一気読みでした。






『サムデイ』




原作は続編が出るまでに6年の開きがあります。
続けて読めるって幸せ。


『サムデイ』の劇的な展開を読むと
『エブリデイ』が序章のようです。 


Aが日替わりで体を借りる「宿主」達が
前作よりもバリエーション豊かで
貧困家庭だったり
体や脳を制御するのが難しかったり
人種も性的指向も多様になって



ブレイディみかこさん『ぼくはイエローでホワイトでブルー』の作中にあった、エンパシーとは「他者の靴を履くことだ」という息子さんの言葉を思い出しました。


彼の視点に立って物事を考えてみるまで、本当に他者を理解することなんてできない。ー彼の皮膚の内側に入り込んで、それを身に着けて歩くまでは。

     「アラバマ物語」ハーパー・リー
     『他者の靴を履く』の引用文より


体の中に入り込む「魂」と
エンパシーを関連づけるのは
反則かもしれないけれど。





『サムデイ』では
EqualityMarch(平等行進)に参加する若者達も描いていて


teens vogueのサイトよりお借りしました。


他人の恐怖に自分の人生を左右させない

とか

「外の世界の目をとおして自分のことを見ないようにしたんだ」


とか、
性自認や身近な人との関係に悩む読者を
勇気づけてくれる言葉が
散りばめられています。


Aとリアノンは、
『サムデイ』で
お互いを理解し受け入れるために
たくさん悩んで、
すごく成長します。
『他者の靴を履く』で論客が語るようなことを
話し合うんです。

メッセージ性が強いのかもしれないけれど、今の若い人達が未来や社会に感じる閉塞感や諦めが、大人が想像している以上のものだとしたら、エンパワメントする物語でバランスをとりたくなる作者の気持ちに共感してしまいます。


こんな物語が生まれる世界は
まだまだ捨てたもんじゃないな、
十代で読んでみたかったなぁ。









A がナショナル・ギャラリーの芸術作品のなかから、自分自身をロスコの絵だ、と驚きながら確信する場面が好きでした。



なかなか清々しい読後感でした。



















ネタバレするのが惜しい作品ばかりで
語りきれず
中途半端な気もします。

最後までお付き合いくださり
ありがとうございます。



皆さまが健やかにお過ごしでありますように。